VZ倶楽部

「VZ倶楽部」(ビレッジセンター刊)はVZエディターをこよなく愛した人たちの本です。平成3年1月に出版されました。ハードカバーで3800円でした。内容はVZファンや一部プロの短い文章の羅列です。パソコン関係の話が多いなか、唸らせる内容もあります。以下の話を読んでから約15年この本を読めませんでした。でも捨てることもできませんでした。筆者が友人と会い、久しぶりに飲んだときのはなしです。二人とも留年中の大学生です。「渇いたアスファルト」(北野明夫氏)から抜粋します。


…だんだん酔ってきた望月は、何日か前まで(個室喫茶で)バイトをしていて、そこで女が信じられなくなって辞めたと言った。…「ただで見られるのか」と聞くと「バイトの先輩が覗くときに一緒に見るんだ」と言った。「一緒でも何でも、それはただだ。それで金がもらえるんならいいじゃないか」「そうでもないんだ」…「お前には、妹がいないから、そういうことが言えるんだ」…堂々と、例えばテニスのラケットとか、学生鞄とかを下げてカップルが入ってくる。望月の仕事はウェイターで、二畳ばかりの個室部屋に入った二人に「何を飲むのか」を聞き、言われたものを持っていく。ただし注文の品を持っていく時は新品のパンティストッキングを用意する。…制服の似合う娘がチンピラに騙されて、みるみる変わっていく姿を見ても何も出来ない自分が歯がゆい、と望月は言った。信じられぬくらい清潔で可愛い女の子が来た。…この娘だけは違ってくれ、と念じて覗いたら…「俺は自分も嫌になったが、それよりも女が信じられなくなった」…有り金を使い果たした僕は、ひどく酔いつぶれた望月を担いで歩いた。…アスファルトは静かに渇いている。重い荷物を背負って歩く自分はこれでいいんだ、みたいな気持ちになった。自分が情けなくなり、だんだん涙がでてきた。…望月は「何がなんだか、わからないが、とにかくお互いこのままじゃいけないんだ」と叫んだ。そして僕は生まれることのできなかった子供の事を考えながら「お願いだからこのまま俺の部屋まで背負わせてくれ」と泣きながら望月に頼んだ。

再度読み返して、この二人は若い頃の私と同じようにモラトリアムでアパシーで何をしていいか分からない状態だったのに気づきました。ただパチンコをしたりバイトをしたり無為に過ごしても焦燥感だけはつのる、「違う」ことだけわかっていたのだと思います。どうしてこの本を読み返す気になったのか? 多分私のなかで結着がついたのかもしれません。「女」は「人間」と置き換えなければなりませんが。

直接のきっかけは、市川準監督「トニー滝谷」でした。生死は髪の毛一本の差です。目をそらさずに、これからも精一杯生きてみたいと思います。原作は村上春樹、音楽は坂本龍一。「宮沢りえ」好演です。

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