悼む人

直木賞受賞作品「悼む人」を読みました。傑作です。新幹線の帰り道、久々に450ページノンストップで読み切りました。荒唐無稽にみえてリアリティあります。物語に引き込まれました。「誰に愛されていたでしょうか。誰を愛していたでしょう。どんなことをして、人に感謝されたことがあったでしょうか」。主人公「静人」と同じように、死んだ人に対する申し訳なさを抱いている人は多いのではないでしょうか。少なくとも私はそうです。読みながら遠い記憶を呼び覚まされました。20年以上前に、ガンの新薬開発に関わっていた後輩T君が肺ガンで亡くなりました。彼の父は海外勤務が長く、母の死に際し帰国しませんでした。父は再婚し別の家庭をつくりました。彼は父を許しませんでした。しかし彼の余命が少ないことを知り、父は長期休暇をとり、義母とともに病棟で1ヶ月余り寝泊まりしました。父は広島での葬儀で、死ぬ直前に許してくれたと涙ながらに語ってくれました。

銀座のルパン(太宰治の写真で有名)は彼に教えてもらいました。彼の父行きつけのバーでした。生前、千葉の病院にお見舞いにいきました。「直ったらルパンにいこう」、咳き込み、痰に血が混じっているのを私に見せながら「直ったらいきましょう、もっと仕事教えて下さい…」と力なく笑いました。あのとき、怖くて彼の手をとることができませんでした。「僕を道連れにしないで」と思っていました。その後悔で思い出すことを拒否していました。今、このブログを書きながら彼の顔や声を鮮明に思い浮かべています。「T君、ごめんなさい、そして、応援ありがとう」  私が生きている間、彼を悼みます。

悼む人

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