戦後日本経済史

戦後日本経済史」を読みました。日本の戦後経済史を論じた本です。奇跡的に成功した高度成長と痛恨のバブル崩壊を分析しています。歴史の流れに逆らうものは、間違いなく淘汰されることを理解しました。同時代を生きてきた私には、懐かしく、やるせない本です。高度成長やバブル崩壊、現在に至るまでの因果関係について、十分に腑におちる内容です。直接的には、石油ショックの時の原油価格の破壊的な高騰がバブルを起こし、現在のデフレ、低成長を規定していることがよく分かりました。遠因は、戦時経済体制から生まれた戦後の改革(農地解放や税制改革など)であることに驚きました。
1960年〜1970年代、両親が子供達のために格闘していた背景がよく分かりました。1990年前後、バブルの発生とバブル崩壊の経緯を詳述しています。結果、約50兆円が国民の負担になったそうです。一般の国民は、住専7000億円の負担しか知りません。長銀日債銀で10兆円損したことや、不良債権処理の名目で税制優遇し、40兆円も損したとは、つゆ知りませんでした。まさに無知の涙です。バブル崩壊後に経営者の責任を追求したが、時効の壁に阻まれ、中途半端な処罰で終わったそうです。「何かおかしい」と思った経営者も、周り空気を読みすぎて声を上げることはできなかったのだそうです。そして、今後どうすればよいのか? 池田信夫さんと同じように「中央集権型経済システム」からの脱却が必要であると述べています。
著者の野口悠紀雄氏は、私の高校の先輩でした。日比谷高校(一高)始まって以来の文系の大秀才であったが、東京大学の理系へ進み、のちに経済学へ転向し、大蔵官僚となりました。備忘します。


戦後日本経済史 (新潮選書)

戦後日本経済史 (新潮選書)

…企業は株主の影響外にあり、利益を追求せずひたすら規模の拡大を求める。大地主や大資本家は存在しない。土地は膨大な数の零細地主が保有する。そして、国家財政が農業や中小零細企業などの低生産性部門に補助を与える。こう整理してみれば、戦後の日本経済は、社会主義経済に他ならないことが分かる。その基本的な枠組みは、戦時経済体制としてつくられたものだ…(p.102)
…大蔵省はバブルに関して大きな責任をもつと言われる。…財テクを可能とする異常な市場条件を放置し、しかも役割が終わった戦時金融体制を維持しようとしたことは、釈明の余地がない大きな誤りだ。(p.165)
…日本の大会社の役員は、「社員のなれのはて」なのである。つまり、「経営しない経営者」だ。…山一は、この点で典型的な「日本の会社」であった。…これこそが、日本経済が抱える最大の問題である。(p.206)
かくして、日本においては、技術と制度・思想が深刻な対立を起こしている。新しい技術の基本的な性格が変わることはないから、制度と思想がどこかで変わるしかない…しかし、その過程において、古い制度や思想との摩擦は、さらに大きくなるだろう。われわれは、長い混迷の時代を覚悟しなければなるまい(p.252)