古事記 不思議な1300年史

古事記 不思議な1300年史」を読みました。大震災後の本です。「古事記」がその時代、その時代でどのように解釈されてきたかを解き明かした本です。「日本書紀」と同時に成立したとは考えられないが、その前の成立でも後の成立でも「古事記」の神話的価値は変わらないとの主張です。平安時代から、解釈論争が繰り広げられ、江戸に至って本居宣長が「古事記伝」を著してから学者レベルでは「古事記」の存在と意味を理解することになりました。明治維新後も新解釈が次々と顕れ、戦後は構造主義の立場からも読み解かれています。
今の人間は、過去の歴史を学んで、当時の人間は迷妄で、頑迷で、幼稚だとか思いがちです。でも、それは違う。本書を読んで時代、時代のインテリ達の論争は相当にレベルが高く、現代のロジックに耐えることがわかりました。備忘します。

古事記 不思議な1300年史

古事記 不思議な1300年史

紫式部が「日本紀などはただかたそばぞかし(日本紀などはただ通り一遍のことしか記されておらず)蛍」(p,48)
…光圀だけは…顔色を変えて、即座に印刷停止を命じた。なんと日本の始祖(アマテラス)が呉の太伯の末裔であると書かれていたからだ。(p.103)
ナショナリズムの権化のような宣長や篤胤もけっして単純な攘夷論者ではなかったのだ。「古事記」の注釈を通して作り出されていくのは、ひじょうに国際的な神話世界であった…(p.132)
…「古事記」の受容、注釈、研究は、その時代の最先端の知を媒介とした、あらたな神話世界の創造であったのだ。(p.162)