なぜ通販で買うのですか

「なぜ通販で買うのですか」を読みました。書名だけで買った本でしたが、当たりでした。著者は「通販生活」の代表です。経験に裏打ちされた意見です。私は仕事としてこの本を読んでいますが、これまで常識や少ない経験で通販を論じていた自分を恥じています。通販の本質は「使用価値を疑似環境でわかりやすく伝達すること」と喝破しています。備忘します。

なぜ通販で買うのですか (集英社新書)

なぜ通販で買うのですか (集英社新書)

(昭和初期のコンサルタント前野仲子の著作)この本はすごく内容が濃くて、顧客リストは固定していて百貨店通販と婦人雑誌代理部の注文客が同一であることはザラだとか、売りにくる名簿はクズのようなリストだから面倒でも自分の手で集めなくてはならないとか、通信販売の心臓は広告だから広告づくりのできない人は失敗するなど、リアルな記述が随所にある。書名とはうらはらに、通信販売のむずかしさをこれでもかこれでもかと念押ししている戦前の名著だ。(p.39)
…広告のスタイルを記事のスタイルに近づける、広告のコピーを記事のように書く、いわゆる「記事体広告」。当時は、「記事体広告」はほとんど存在しなかったから、手探りでスタイルをつくった。(p.55)
もう一度くり返すよ。カタログ販売で売れる商品とは「街のお店では入手しにくい商品」なのだった。消費者は「街のお店でもかんたんに入手できる商品」はわざわざカタログ販売では買わないのだった。(p.100)
70年代に入って我が国の通信販売は一挙に花開いていくわけだが、DMの制作技術、商品の申し込み方法、代金の回収方法、申込率を上げるための特典づくり、リストの管理方法、有効リストのしぼりこみ方法といった通信販売に固有の技術をわが国の業界に教えてくれたのは「リーダースダイジェスト」だった。(p.114)
…広告の力だけではとても需要はつくれない。消費者はそれほど単純ではないよ。需要は広告の力ではなくて、消費者一人ひとりの環境や気質、主義や経験、時代の気分や変化などによってつくられていくものだ。広告の力を買い被ってはいけない。広告にはせいぜい、消費者の内部に潜在している需要を顕在化する力しかないのだから。(p.127)
・使用価値=生理的欲望=自己保存 ・差異価値=心理的欲望=自己顕示 消費の本質は自己保存と自己顕示だ。この二つの本能(欲望)が重層化したものが商品だ。(p.130)
これが新しい買い物のかたちだった。買ったあとでなければわかりにくい使用価値を、買う以前にわかりやすく伝えるかたち。…通信販売全般に共通する特性だった。…現物を文字と写真で情報化する売り場(疑似環境)の方が使用価値は伝達しやすいのだった。(p.140)
信販売の本質は一にも二にも実演販売である。…小売りの原点、広告の原点は香具師の口上(タンカ)にあると信じているからね。(p.146)
テレビCMを筆頭として、著名人が広告にしばしば登場する理由を一言でいえば、「広告主は信用されない」である。ふた口でいえば、「広告に出てくる著名人はあなたが信用する友人の代理人として機能する」である。(p.156)
小売は企業であり、企業の本質はお金儲けである。そのお金儲けがつくってしまう消費者と地球への迷惑をどこまで減らせるか、どうしたらお金儲けを消費者と地球に役立つものに転化できるか…という視点が…小売りジャーナリズムである。(p.245)