午前8時のメッセージ

「午前8時のメッセージ」を読みました。世阿弥によれば、年をとったら「老後の初心、忘るべからず」だそうです。その意味は「老醜をみせない」というアドバイスだそうです。本書は、戦後の有名評論家、草柳大蔵さんの最晩年の著作です。構えず、衒わず、話し言葉を文章にしたわかりやすいエッセー集です。ラジオ放送原稿(静岡)で1篇2ページ、全99篇で構成されており、テーマは主に教育です。野村克也元監督の推薦で読んでみました。良書です。備忘します。★★

午前8時のメッセージ

午前8時のメッセージ

 …子供の「つ」がつく年齢に物事を全部教えるということ(「つ」がつく年齢とは一つから九つですね、十歳になるとダメなんです。)「つ」がつく年齢に第1期の人格形成が行われるためですね。江戸時代もそうでした。この時代には三つで躾、五つで読み書き、七つでそろばんといったんですね(p.36)
成人式の少年少女たち、なぜ、こんなに手がつけられなくなりつつあるのかと思います。ひとつのキーワードがあります。「ネオテニー」という言葉です。幼形成熟。たとえば、犬は狼の子どもの形と性質を保ったまま大人になったものなんです。人間にもあるんですね…日本の若い女の子は…口のしまりがない。…やわらかいもんばかり食べてきたために、顎の骨が発達しないんですね。(p.104)
…お父さんは長いこと、複雑に絡んだ糸と格闘しています。(川上)哲治さんがたまらず、「お父さん、もういいよ、帰ろうよ…」と言うと、父親が振り返って「いったん取り掛かった仕事は、成し遂げなければ男じゃないんだよ。よく覚えておけよ」(p.121)
…お母さんの躾を紹介しましょう。…「あんぐりあんぐり歩くものではない」。つまり背筋はシャンと伸ばしてきれいに歩けというんですね。…二番目は「人並みに暮らせ。どんなにお金がたまっても無駄をするんじゃない、ぜいたくをすれうんじゃない…」…三番目は…「途中で仕事をなげるな」というんですね。「手掛けた仕事は最後までやれ」と。(p.138)
ほめるとか、くさすの問題ではなく、目と目を向き合わせてほしい。話しかけたら返事をしてほしい。…突き放すばかりでは子どもは育たない。しかし、ほめるのにも工夫がいります。…「跳び箱五段までもうちょっとだね」(p.149)
「初心忘れるべからず」…世阿弥は年代によって三つの言葉に分けています。(若い人向けには)「是非の初心忘れるべからず」というのは…若さの故だぞ、…と戒める。中年に向けての「時分の初心忘るべからず」というのは、中年になると…華を失う…そんな時は「華やかに見えるように工夫しなさい」と。それが、「時分の初心忘るべからず」なんですね。…最後の「老後の初心忘るべからず」…年をとった、華をつけようにも華はない。それで「老後の初心忘るべからず」ということはどういうことかというと「老醜をみせない」というアドバイスなんですね。(p.197)