「太陽」に連載された25種類の花に関する話です。古い本ですが、花の絵がとてもきれいです。「シャンソンの”リラの花咲く頃”は宝塚でスミレに化けてしまったが、ライラックをリラと発音するとこの花が急にパリの花のようになった気がするのは、私だけだろうか」 備忘します。

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フローラ逍遥

フローラ逍遥

梅の花とくれば直ちに適齢期という形容詞が思い浮かぶ。適齢期と読む。ものが鮮やかにし白く光り輝くさまを言う。おそらく、こんな言葉が反射的に頭に思い浮かぶのも、私の同世代がギリギリの最後ではなかろうか。ページ30
中世になると、スミレは聖母マリアの花として、ますます脚光を浴びるようになる。なぜスミレが特にマリアに結び付けられたかといえば、その匂いや気品もさることながら、キリスト教の美徳の中で一番大事なものとされた謙譲を表していたからだった。…マリアは謙譲スミレ、純潔の百合、そして慈愛のバラなのである。この3つの花ほど中世の美術に頻出する花もないだろう。ページ42
赤いお帽子/青い服、/チューリップ兵隊 きれいだな。/土に もえ出た 二中隊/チューリップ兵隊 かわいいな。/ 昭和2年の「コドモノクニ」という児童雑誌に載った北原白秋の童謡である。ページ51
すなわち、自分に殺された少年たちの粉々になったこれで肥えた土地に、黄金色のエルシドの花の西田の花が咲いているのだと想像して10年興奮するのである。ページ58
おそらく古典古代には全く名前が知られていなくて、ようやく16世紀に西ヨーロッパに移入されたにもかかわらず、19世紀を通じて、これだけ人気があったのも稀であろう。シャンソンの「リラの花咲く頃」は宝塚でスミレに化けてしまったが、ライラックをリラと発音するとこの花が急にパリの花のようになった気がするのは、私だけだろうか。ページ75
このキリスト受難の花という名前に比べれば、日本で名付けられた時計草のほうがはるかに単純な想像力による見立てということができよう。ページ138
散るのも早いし、またその真紅が血の色を思わせるからか、ヨーロッパではケシは縁起の悪い花とされているようだ。ケシが殺されたものの血から生えるという俗信も、ほとんど全世界共通だそうで、そういえば中国の虞美人の伝説も、同じパターンのものだということがわかる。ページ171
…もう一つ隠語に属する言葉の詮索をしておこう。菊もしくは菊座は肛門の異称である。その放射状の形が菊の花を思わせるからであろう。誰が考えたのか、うまい命名だそうと思わざるを得ない。ページ203