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完本 昭和史のおんな

 「完本 昭和史のおんな」を読みました。澤地久枝女史の傑作です。「ノンフィクションの金字塔」というコピーの通りです。昭和のはじめから戦争までの有名無名のおんなの記録です。綿密な事実調査と考察、文章の確かさと見事な構成で読ませます。500ページを超える分量を全く感じさせません。事件の渦中や事後の心理描写に卓説したものがあります。男ではわからない類推に何度も感心しました。16篇とも素晴らしい作品ですが、あえていうと「八上中尉夫人死の餞別」「チフス饅頭を贈つた女医」「雪の日のテロルの残映」が秀逸です。備忘します。

完本 昭和史のおんな

完本 昭和史のおんな

わたしはノンフィクションの書き手となって以来、旧憲法下の「昭和」を書くべく心がけてきていた。…歴史の網の目からこぼれ落ちて知られず、忘れられた有名無名の人たち。その人たちの人生をはめこんでいかなくては…。ページ524
「おんな」を書くとは、そこにかかわった「おとこ」を書くことでもあった。昭和史とよばれるものとも女性史とも異質な暮しの「事実」を書きとめて、歴史に厚みをもたせ、埋没した人たちを復権させることでわしたちが手にする知恵、遺産。それがこのテーマを書くときのわたしの目的だったと思う。ページ536

・妻たちと東郷青児
昭和四年三月、朝刊社会面トップに「洋画の鬼才東郷育児氏/愛人と情死を企つ」とのスクープが載つた。この時東郷にはふたりの妻がいた。
・八上中尉夫人「死の餞別」
満州争変勃発直後、軍人の夫の出陣前夜に二十一歳の新妻は謎の自決一遂げた。やがて事件は、軍国妻の美談へと仕立てあげられていつた。
・保険金殺人の母と娘
多額の保険金をかけられていた”日大生殺し”は母と妹の自白で肉親の犯行とわかった。医者一家はなぜ長男を殺さねばならなかつたのか。
・志賀暁子の「罪と罰
二・二六事件以来の戒厳令下、新興キネマの人気女優志賀暁子は産婆Gと共に堕胎罪に問われた。銀幕に咲いた無垢の女のイメージは…
・杉山智恵子の心の国境
昭和十三年初頭、杉本良吉は女優岡田嘉子と共にロシアへと越境した。残された杉本の妻、杉山智恵子は病いの床で孤独なたたかいを続けた。
・チフス饅頭を贈つた女医
病院副院長宅にデパートから送られてきたチフス菌饅頭-贈り主は男への長年の献身を踏みにじられ、懊悩にとりつかれた女医であつた。
・性の求道者・小倉ミチヨ
近づく軍靴の響きをヨソに、小倉清三郎と妻ミチヨは極貧の中で空前の性研究誌「相対」を出し続けた。だが夫婦の間にあつたものは…
・桝本セツの反逆的恋愛
科学史家、岡邦雄の新恋愛論は、二十二歳下の桝本セツへの愛の賛歌であった。セツは妻子ある岡との恋を、生涯を貫く愛へと着地させた。
・初代女性アナ翠川秋子の情死
昭卸十年八月六日、「初代アナウンサー悲しき母の一生・永遠の憩いを死へ?」の記事が載った。しかし、このとき彼女はまだ生きていた。
・擬装結婚の愛と真実
非合法共産党活動に挺身していた若松齢が逮捕されたとき、彼女が案じたのは自分の前歴について何も知らない九歳年下の「夫」の身だつた。
・さまよえる「ノラ」
建国間もない満州で、医学博士の美貌の妻をめぐる四角関係のはてに起きた猟奇殺人事件-「もっとも反社会的女」となった人妻の罪と罰
・日中の懸橋 郭をとみと陶みさを
郭沫若、陶晶孫の妻として日中戦争の”時代”を生きた佐藤をとみ・みさを姉妹。今は中国に住む姉と日本に住む妹の辿ったそれぞれの人生。
・伝説のなかのプリマドンナ
十五世羽左衛門の姪であり、フランス人の血をひき、数々の欧米の舞台で喝采を浴ぴた歌姫関谷敏子。彼女の死の真相は服毒自殺だった。
・夫の生還を信ず
「うやむやにて公報は吾が受けがたし 只に知りたし夫の消息」1銭五厘で戦場に送られた夫の帰還を信じ、待ち続ける妻たちの戦後。
小林多喜二への愛
小林多喜二の「妻」か「ハウスキーパー」か-戦後,歴史論争を呼んだ「党生活者」の「笠原」のモデル・伊藤ふじ子の歩んだ七十年の歳月。
・雪の日のテロルの残映
二・二六事件で惨殺の渡辺錠太郎大将の次女は九歳で事件を目撃。戦修道院へ。襲撃側の一人・竹嶋継夫中尉には未だ見ぬ子が残された。