ハドリアヌス帝の回想

ハドリアヌス帝の回想」を読みました。第二次大戦後に書かれたフランスの本で、名著の誉れの高い書物です。歴史に忠実でありながら想像や創作が混じった作品です。ハドリアヌス帝が後継者に自分の事跡を語りながら、自らの政治哲学や文化、思想を述べるというスタイルです。主人公は、2000年ほど前、ローマの五賢帝と呼ばれる優れた皇帝です。ハドリアヌス帝の時代にローマ帝国は最大の版図を示しました。恵まれない子供時代、戦争にあけくれる青年時代、皇帝に指名される前後の逸話、治世の難しさ、特にギリシャ文化への傾倒とユダヤの民との戦いに興味を惹かれました。死に対する諦観や皇位継承の後の政敵抹殺の著述はとても微妙で心が震えました。備忘します。

ハドリアヌス帝の回想

ハドリアヌス帝の回想

さまよえるいとおしき魂よ
汝が客なりしわが肉体の伴侶よ
汝はいまこそ辿り着かんとする
青ざめ こわばり 露わなるあの場所に
昔日の戯れも もはやかなわで…
皇帝 アエリウス・ハドリアヌス (巻頭)
彼女はスキャンダルの種となった離婚のあとで、家族の者たちによって不健康な島に追いやられ、そくで若くして死んだ。そのことを私は彼女のためによろこんだ。ページ75
あまりに頻々と犯される法は悪法である。そんな愚かしい掟の引き起こした侮蔑の念が、正しい他の掟に及ばぬように、それを廃止するなり変えるなりするのは立法者の義務である。ページ126
そして犠牲の式が行われようとしたその刹那、われわれの頭上に落ちた雷が、生贄の獣とそれを殺す僧とを一撃のもとに屠り去った。ページ198