大泥棒

「大泥棒」を読みました。大著ですが、非常に面白く読み耽ってしまいました。著者は「犯罪行動生態学」の日本の権威だそうです。二人の大泥棒の文書と聞き取りをもとに犯罪を体系づけています。たくさんのフィールドワークに裏打ちされた労作です。泥棒のみならず、性犯罪など犯罪者の心理を読み解いています。誰でも犯罪者になる要素があること、そのきっかけを作らないことが大切だと説いています。それにしても一流の大泥棒は心理学者にして素晴らしい運動能力を有していることを知り愕然としました。「人を見たら泥棒と思え!」備忘します。

大泥棒 ―「忍びの弥三郎日記」に賊たちの技と人生を読む

大泥棒 ―「忍びの弥三郎日記」に賊たちの技と人生を読む

賊は様々にイメージされるが、「賊の精神」「賊の身体」「賊の知識」そして「賊の見る社会の来し方、行く末」についてしのびの弥三郎や猿の義ちゃんを通し、いきた定義をしておこう。辞書的に言うなら、賊とは「他人に危害を加えて他人の財物を略奪破壊役したりする者」と表現される。
凶賊は、「乱暴でむやみに人を傷つけたり殺したりする賊」であり、忍びの弥三郎や猿の義ちゃんが言う賊は「決して被害者の身体に危害を加えず盗る」のである。ページ51
絶え間ない緊張にさらされている表の日常生活と、「私を縛る社会的くびきが溶けてしまい何でもあり」の裏の非日常生活が混在している今日の社会では、猿の義ちゃんが言うように「ぐぐっとこらえる」ことのできない人間は、平凡な生活を過ごしているように見えて、いつ犯罪者と化してもおかしくない。そういう意味で私たちは、今は犯罪者ではなくても、いつ犯罪者化してておかしくない日常を過ごしてる。ページ108
…彼ら賊の精神は、一見「御上さま意識の権力追従的、かつ周りに同調的」であるが、職人としてこの世界の最高位にある賊としての「隠された自尊心」に支えられて「見栄張り」である。この隠された自尊心に触ると、心底にある「社会的にはもう失うものはない」というアウトロー的精神、そして日常の過度の抑制、半端者という「深いコンプレックス」が相互に影響しあい、周りから見れば突然わけがわからず「キレる」状態へと陥っていく。ページ115
中学までの学校や家庭の何が問題なのか。答えは5歳までの親子の関係で、5歳になるまで親がきちんと子供に向き合って、時には暖かく、ときには世の中の常識を厳しく体得させようとしているか否かである。…男親なら男の子の子育てに関わっているか否かである。注意しなければならないのは子供にとって親はいるけれどないということである。家庭には、基本的に父親という人間か母親という人にしかいない。ページ132
人間は悪さを働くものである。しかし、多くの人を犯罪者になることなく人生を終える。だからこそわれわれは、彼もしくは彼女はなぜ犯罪をはたらくのかではなく、なぜ悪さを働かないのかに注目すればならない。…最終的に必要なのは、自己統制を外してしまう「ちょっとした機会」の存在だけだ。ともかく、人間にその機会さえ与えれば、どこにでも犯罪者は誕生するし、被害者も生じる。結果として犯罪はどこでも起きるということは心のに深く留めておこう。ページ171
どんな家屋が狙われるか?…非常に興味深く、掲載することに大きなためらいを生むのは、忍びの弥三郎の次の記述である。密集した民間、または商店街が道路を挟んで立ち並んでいるわけであるが、三叉路、十字路、Y字路、T 字路または、多く交差するその中心点より近い家屋がえてして狙われやすい。これは足自身の逃避口に神経を固守するためである。ページ284
これまで述べてきたように、犯罪者の行動は被害者の手前500メートルから始まり、被害者直前の0メートルで襲撃に至る。その行動を止めるには、20メートルという距離に注目しなければならない。犯罪者と被害者が顔を合わせるゼロメートルでは、もうどうにもならない。その20メートルの犯罪者の心理は、いい獲物があるか、見咎められないか、そしてやりやすいかの3点に絞られる。 …すなわち、この「やりやすい」ことこそが標的を目の前にした犯罪者を「やるぞ!」という行動に押し出していく最終心理である。ページ323
「やりやすい」を構成する1つとして「近づきやすい」がある。。この「近づきやすい」は、①機械と死角が多い ②標的が必ずそこを利用する、そこにいる ③加害者、被害者だけの閉じた空間の三つから構成され、その一つでも存在した場合、「やりやすい」と犯罪犯罪者は判断。2つ以上あれば最高だという。ページ327
犯罪者は理屈ではなく「ここはやりやすい」というイメージを直感的に抱く。このことが行動へと駆り立てる補強作用をする。…直感というイメージは①街が汚れてる ②人が人に無関心 ③恐れを生み出すものがない ④人が汚れている の四つから構成される。この内1つでも犯罪者にイメージ日目されればやりやすいことになる。ページ332
「目的の家屋の構造が賊の侵入を助けるものであってはならない」という表現は、いわゆる家屋が構造的に有する「死角」の存在を意味する。「死角」とは被害者が生み出す「隙間」である。隙間には①心の隙間 ②時間の隙間 ③空間の隙間そして④社会の隙間の4つがある。この隙間のそれぞれが、犯罪者に犯罪実行の機会を与える。被害者にとって大切なのはいかに「隙間=死角」を作り出さないかである。ページ338
こうした状況に備えるため、防犯ブザーを就寝前に布団の中や脇に備えることをお勧めする。特に高齢者あるいは女性で、かつ独居者ならなおさらだ。そのブザーの紐を引いて鳴るのをふすまや遠方に投げ、「ガタン」と音をさせること。できればそのブザーは。音と同時に発光するものが望ましい。ページ406
防犯ブザーを活用した「釣り糸センサー」…この釣り糸センサーは自分でセットでき、経費は千円もしない効果抜群な簡単手作りセンサーである。ページ407