もっと言ってはいけない

「もっと言ってはいけない」を読みました。「言ってはいけない」が衝撃的すぎて、今回の著書はそこまでのインパクトはありませんでした。ヒトという生物は、事実に基づいた理解を苦手としています。「氏より育ち」ではなく「育ちより氏」だと再認識しました。備忘します。

もっと言ってはいけない (新潮新書)

もっと言ってはいけない (新潮新書)

この結果をわかりやすく言うと次のようになる。①日本人のおよそ3分の1は日本語が読めない ②日本人の3分の1以上が小学校34年生の数的思考力しかない。 ③パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかいない。 ④65歳以下の日本人の労働力人口のうち、3人で1人が早々パソコンを使えない。ページ24
知識社会とはその定義上、高い知能を持つものが社会的経済的に成功する社会のことだ。そう考えれば、知識社会における経済格差とは知能の格差の別の名前でしかない。知能の問題から目を背けて、私たちがどのような世界に生きてるのかを理解することはできない。ページ37
言ってはいけない」でも述べたが、行動遺伝学発見した「不都合な真実」とは、知能や性格、精神疾患などの遺伝率が、一般に思われてよりも高いことではなく(これは多くの人が気づいていた)ほとんどの領域で共有環境(子育て)の影響が計測できないほど小さいことだ。音楽や数学、スポーツなどの才能だけでなく、外行性、協調性などの性格でも共有環境の寄与度はゼロで、子供が親に似ているのは同じ遺伝子を受け継いでいるからだ。ページ43
知能に関する遺伝の影響は成長とともに高まり、幼児教育の効果は思春期になると、ほぼ消失するという発達行動遺伝学の知見はヘッドスタートのような教育支援に深刻な疑問を投げつける。ページ76
母子家庭の世帯所得を増やすには、行政からの生活保護、父親からの養育費、母親が働いて得た所得などが考えられる。…実際には、成績や学習態度で見て最も教育効果が高いのは養育費で、次いで労働所得、生活保護の順になった。同じ不労所得なのに生活保護の効果が際立って低いのは、母親の(ひいては子どもの)自尊心を低下させるからのようだ。ページ81
近年のDNA解析によれば、ヤマト人(現代日本人)は大陸由来の弥生人と土着の縄文人の混血であることがわかっている。地域によって異なるが縄文人のDNAの割合は平均して14から20パーセント程度で、アイヌ人と沖縄人は弥生系の混血の度合いが少ない。ページ193
「日本人の起源」では縄文人弥生人、ヤマト人とアイヌ人、オキナワ人の遺伝的な違いが研究され、近年では日本人と中国人、韓国朝鮮人が遺伝的どれほど異なっているかが(一部で)強調されるようになった。だがDNA解析が示すのは、東アジア系は混血が進んでおり、遺伝的にとてもよく似ているということだ。日本人だからといって、あるいは中国人、韓国・朝鮮人だからと言って、「特別」なところは何もないのだ。ページ196
至る所に警察官を配備し、一挙手一投足を監視するには膨大なコストがかかる。だが他人の道徳的不正を罰することで快感を覚えるように脳を「プログラム」しておけば、共同体の全員が「道徳警察」になって相互監視することで、秩序維持に必要なコストは劇的に下がるだろう。近年の脳科学はこの予想通り、他人の道徳的な悪を罰すると、セックスやギャンブル、ドラッグなどと同様に快楽物質のドーパミンが放出されることを明らかにした。人にとって「正義」は最大の娯楽のひとつなのだ。ページ210
心理学では人格の「ビッグファイブ」を開放性、まじめさ、外向性、協調性、精神的安定性としているが、これらの性格と仕事の成果業績の関係をみると、全ての仕事において最も影響が大きいのは、まじめさで、次いで外向性、精神的安定性となっている。ページ216
人類の第一の「革命」は石器の発明で、「誰もが誰もを殺せる社会」で生き延びるために自己家畜化が始まった。第二の「革命」は農耕の開始で、ムラ社会に適応できない遺伝子が淘汰されてさらに自己家畜化が進んだ。第三の革命が科学とテクノロジーだが、ヒトの遺伝子は、わずか10世代程度では、知識社会がもたらす巨大な変化に到底適応できない。ここに現代社会が抱える問題が集約されているのだろう。ページ241
トランプ現象が明らかにしたのは、ほとんどの人は「事実(ファクト)」など求めていないということだ。右か左かにかかわらず、人々は読みたいものだけをネットで探し、自分たちを「善」、気に入らない相手に「悪」のレッテルを貼って、善悪二元論の物語を声高に語る。人の脳は部族対立に最適化するよう「設計」されており、直感的にはそれ以外の方法で世界を理解できない。ページ242