現場論

「現場論」を読みました。現在の仕事のために再読しました。7年前、前職で初めて製造会社を任せられました。社長として、どのように方針を示すか悩んでいました。そのときに一番影響を受けた本です。著者の遠藤功氏は「見える化」という言葉を世の中に普及させた方です。当時、心して読みました。
会社には「平凡以下の工場」「平凡な工場」「非凡な工場」があり、一足飛びに「非凡な工場」になることはない、すぐにはトヨタデンソーにはなれないのです。まずは「平凡な工場」にすることが大事で、そのためには「規律を守らせることだ」と断言しています。工夫や革新には「自由」が必要だが、まずは「規律遵守」から手をつけるべきだと延べています。その通りに取り組んだら、生産効率上昇、ひいては利益がゆっくりと増えました。「非凡な工場」にすることはできませんでしたが、この本のおかげで危機を脱することができました。著者のインタビュー記事と本文を備忘します。

現場論: 「非凡な現場」をつくる論理と実践

現場論: 「非凡な現場」をつくる論理と実践

  • 作者:遠藤 功
  • 発売日: 2014/10/24
  • メディア: 単行本

「企業が業績不振になると、本社や経営陣が叩かれ、経営戦略がまずいといわれる。しかし、一方の現場はどうか、きちんと機能しているのか。…」
 これまで訪れた現場は400を超える。そこから見えてきたのは、日本企業の「現場」の特殊性だ。生産の場において自立的、自主的に問題を解決する力を備え、それを成しうるナレッジワーカー(知的労働者)も多い。
 上からの統制的な指示に従うのが一般的な海外企業の生産の場とは、そこが大きな違い。 ところが近年、「これはすごいと思える“非凡な現場”は10%程度にすぎない。与えられた業務をこなすだけではなく、自ら課題を見出し、軌道修正する能力を持った現場が、かつての日本企業の成長を支えた基盤だった。今、それが痩せ衰えている。
 これまでの著作では、現場力の重要さを訴えはしたものの、現場力をどう鍛えるか、その方策を示してこなかった。本書では「現場を強くする道筋」を説くことに力を入れた。
「現場だけを改善しても『非凡な現場』にはならない。本社主導でもうまくいかない。現場の潜在能力をどうすれば解放できるのか、それを考え実践する必要があります」
「本社主導、戦略重視の欧米的な経営から、いま一度、足元の現場に立ち戻り、競争力を組み立て直してほしい。現場が強い企業は、世界で勝てます」と著者。その処方箋は本書に詳らかだ。(「現場論」著者インタビュー記事の抜粋)

現場力という組織の力は、次の3つの異なるの力による重曹構造になっている。①保つ能力、②より良くする能力、③新しいものを生み出す能力 ページ89
業務遂行主体である現場にとって基盤となるものは、言うまでもなく「確実に業務を遂行する能力」である。価値創造のために決められた仕事を決められたように確実に遂行する。それができなければ現場の本文を果たすことができない。私はこれを「保つ能力」と呼んでいる。ページ91
仕事のやり方や手順を定める標準作業、目標コストを定める標準コスト、目標納期を定める標準納期等、業務遂行に必要な標準を明確に定めて明文化し、周知徹底させ、確実に実現。ページ93
生産性の低い現場には「しか」が実に多い。私「しか」できない。彼に「しか」任せられない。これ「しか」やらないなど、仕事が属人化し、放置されたままになっている。標準化が全く進んでいないのだ。一方、生産性の高い現場では。「でも」が多い。誰「でも」できる。新人「でも」こなせるなど、標準化が確立され、誰にとっても当たり前になっている。ページ94
「より良くする能力」とは「微差力」である。現場が創意工夫によって積み重ねていく、日々の改善によって現場の体幹が鍛えられ、骨太の組織能力へと進化を遂げる。「微差」を生み出すことができる現場とそうでない現場には決定的な差がある。ページ98
「非凡な現場」は「より良くする」ことだけでは満足しない。日々の業務を遂行しながら、まったく新しい価値を生み出す革新的な取り組みを行っている。これを「新しいものを生み出す能力」と呼ぶ。ページ162
創造は自由から生まれる。いやその中からしか生まれない。現場起点の改善や革新を見出そうとするならば、現場の自由度を高めることが必須だ。現場の権限、裁量権を高めることによって、現場の創造性を喚起する。ただし、明確な順番があることを忘れてはならない。「規律の遵守」こそが何よりも優先するべきことである。規律も担保できない現場に、裁量権はありえない。規律と言う土台があってこそである。ページ110
「平凡以下の現場」に成り下がってしまった現場に対する処方箋は1つしかない。それは、とにかく「平凡な現場」に取り戻すことだ。ページ117
「非凡な現場」には例外なく愚直さと言う共通点がある。愚直さに触れずに現場力と言う組織能力を論じることができないのだが、愚直と言う言葉を持ち出すとどうしても精神論根性論の色彩が全面的に出てしまう。157
「より良くする能力が」現場になければ、効率性、生産性は著しく劣化し、やがて企業が競争力を失う。保つ能力だけではコストを肥大化し、熾烈な競争に勝ち残ることができない。ページ223
現場に標準は欠かせない。標準なき現場は法律なき社会と同じだ。共通の拠り所がなければ、無秩序と混乱を招く。ページ255
言い訳は、「忙しい」「時間がない」。せっかく現場で改善の気づきがあっても、それをシートに記入したり、パソコンから入力するのが面倒、その時間が取れないと言う理由でうやむやになってしまうことが実に多い。ページ260
現場は、経営者の「写し鏡」である。「より良くする能力」「新しいものを生み出す能力」をコア能力にしようと経営者が思わない限り、現場が能動的に新たな能力を構築することはありえない。経営者が「保つ能力」のままで良いと思っていれば、現場はそれ以上のことをやろうとはしない。経営者が「保つ」ことにすら興味を持たなければ、現場はやがて「保つ」こともできなくなるだろう。ページ323

マンガでやさしくわかる5S

「マンガでやさしくわかる5S」を読みました。仕事上の読書です。コンサル先から5Sの解説講義を求められました。説明相手が工場経験者ではないので、できるだけ易しい本をテキストにしてみました。でも、最も大切なことは、5S活動の主体が経営者であることです。中小零細企業では、社長がその気にならなければ、5Sの実効はあがりません。取り組んでいる企業はたくさんありますが、本気でやってる企業は多くありません。本気でやれば、競争に勝つことができます。どうなることやら… 備忘します。

マンガでやさしくわかる5S

マンガでやさしくわかる5S

まずは、安全な職場であることです。危険が潜んでいる職場では、安心して仕事に取り組めません。ページ24
5Sは当たり前のことを当たり前に実行する取り組みです。これは一見簡単なようで、実行するのは困難です。ページ28
5Sは段階的に取り組みます。第一段階は整理です。整理の徹底により、整頓が確実に実施できる環境が整備できます。まずは、職場にある不要なものを徹底して捨てます。その結果、職場には不要なものがないというレベルに到達します。ページ32
習慣づけるには何が大切なのでしょうか。習慣づけるには繰り返しが必要と言いましたが、基本は何度も同じ行動を繰り返すことにあります。そしてその行動には主体性が求められます。上司から指摘された繰り返しでは習慣付けません。さらに、自主的に何度も繰り返すためにはそ「の目的は何か」「その意義は何か」について本人の理解、納得が必要です。ページ36
整理の適切な目標とはどのようなものでしょうか。①店の上にはものが置かれていない、②床にものを直置きされていない、③棚の中、引き出しの中には少し隙間ができる。ページ71
整頓とは、「必要なものがすぐに取り出せるように置き場所、置き方を決め、表示を確実に行う」と定義づけています。整頓は、いつでも必要な時に必要なものが取り出せるように、ものを管理状態に保つための方法です。誰が使用しても、確実に元の状態に戻される仕組みを構築します。ページ84
清掃とは「掃除をしてゴミ、汚れのない綺麗な状態にすると同時に、細部まで点検すること」と定義しています。ページ138
一斉清掃とは、組織メンバーが全員参加で同時期に一斉に清掃する仕組みです。日頃できていない場所も含めて、職場内のあらゆるところを清掃します。ページ143
清掃基準は清掃管理基準をまず作成し、一斉清掃の実施結果を踏まえて仮基準を見直す流れで作成すると良いでしょう。ページ146
清潔とは、整理、整頓、清掃の3S継続して維持する取り組みさせるためには、5Sルールを作成し、それを標準化し、「見える化」の仕組みを構築することがポイントになります。ページ159
見える化」の方向としては、①透明化、②区別化、③目印化、④ルールの表示化、をすることがポイントになります。ページ166
5Sを職場で定着させるには「しつけ」が重要です。しつけとは「決められたことを、決められた通りに実行できるよう習慣づけること」と定義しています。ページ200
人は納得できる、できないで努力の度合いがかなり異なります。当然、納得できる行動は、納得できない場合に比べて努力の程度が高いのです。5Sへの取り組みも、納得して取り組むには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。①5Sの重要性を理解する、②実際に実践することで成果を実感する、③5Sは自分のためだけでなく他人のために実施する。 ページ203
5Sのレベルアップ計画は3ヶ月単位で作成します。…計画に続いて、実施段階でも現場の意見を吸い上げながら進めることがポイントです。…メンバーとのコミニケーションが重要です。そしてメンバー全員を巻き込んでいきます。それが5Sの徹底度の向上にもつながります。…管理監督者は、計画に対する実施状況の確認が必要です。チェック段階で問題だと感じた箇所があればそれを明確にして改善に繋げます。ページ218
メンバーの協力を引き出す基本はコミニケーションにあります。そのポイントは、相手の心をつかむと言うことです。心をつかむには、相手の立場や考え方を尊重する姿勢が大切です。そして、相手を尊重している気持ちを伝える必要があるのです。ページ223

日本一社員が辞めない会社

「日本一社員が辞めない会社」を読みました。フィットネス業界の古い知り合い、小池修さんの著書です。15年ぶりに異業種交流会で再会。彼が講演の講師でした。感激しました。彼は、元メガロス(上場企業)の役員でした。役職を擲っての起業です。介護事業会社、リハプライム株式会社を興しました。リハプライムは、定着率96%とのこと、素晴らしいです。ブラックといわれている介護業界ではありえない定着率です。講演内容、著書から類推すると、フィットネス業界の人事管理手法が垣間見えます。「敬護」を旗印に「高齢化日本をハッピーリタイアメント社会に変える」ことをミッションにしています。
10年かからず、185名の社員を雇い、40数カ所の拠点を運営しています。凄いなあ! ベンチャー企業の社長として苦労を重ねた経緯も聞きました。偉いなあ! 備忘します。

日本一社員が辞めない会社

日本一社員が辞めない会社

  • 作者:小池 修
  • 発売日: 2018/03/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

優秀な人材の流出を防ぐには、会社のビジョンと社員の夢のベクトルを一致させることです。ページ24
社員を増やすことが先行投資ですので、「社員を増やして売り上げが増えなかったら赤字になってしまうのではないか…」という不安もあると思います。しかし、私の経験から言うと、「売り上げ増えたら社員を増やす」という考えそのものの方が不安です。やる気みなぎる社員がいなければ売り上げは上がらないからです。ページ35
最悪なのは現在の待遇が悪く、一向に改善される気配がないこと。このような状態が続くと、社員は疲弊、やめていってしまうのです。したがって、そのような状況を回避するためにも、まずは社長自身が本気で社員の待遇改善を考えていると言うことを社員に伝え、理想の姿に向けて小さな事でも形にすることから始めてください。ページ44
社員の定着率を上げ、100%に近づけていくためには、待遇以外の面でも色々と改善していかなければなりません。では具体的には何をすればいいのか? それは次の4つのことが、重要ポイントでオセロの四角といえます。①目的の共有、②社長やリーダーが理念を体現する、③社員の味方となり、信頼関係を構築する、④社員のやる気を支援をする。以上が社員が辞めない会社づくりの4つのステップです。ページ47
社員に共感される経営理念はどうやって創ればいいのか? それを考えるには、次の2つの質問が有効です。①自分は誰を助けたいのか?、②なぜ自分がやるのか? ページ69
「ビジョン」と言うのは、経営理念をビジュアル化したもので、私はこれを経営理念の「見える化」と呼んでいます。なぜ「ビジョン」が必要なのかというと、経営理念を言葉だけで伝えようとするよりも、写真やムービーを使ってビジュアル化した方が、伝わりやすくなるからです。ページ88
「人は誰もダイヤの原石と信じる」という事は、言い換えれば「社員の長所も欠点も受け入れる覚悟をする」と言うことです。ページ137
社員の支援の中でも特に重要なのが、社員の夢と会社の夢のベクトルを合わせることだと思っています。ページ181

ギグ・エコノミー来襲

「ギグ・エコノミー来襲」を読みました。「ギグ」とは「一時的な」というくらいの意味です。今、米国では正規雇用の労働者が減って、一時的、不定期な独立事業者、フリーエージェントが増えているそうです。その実態分析の本かと思いましたが、さにあらず、本書は個人でコンサルタントを始めるための指南書でした。具体的には、「自分のブランドを確立する」ための自己分析のやり方(SWOT分析)や、リンクトインTwitter の使い方まで述べてます。コンサルタントの一日の料金は、年収の1%が目安だとのこと、参考になりました。日本語訳が練れていないのが気になりました。備忘します。

ギグ・エコノミー襲来 新しい市場・人材・ビジネスモデル

ギグ・エコノミー襲来 新しい市場・人材・ビジネスモデル

  • 作者: マリオン・マクガバン,斉藤裕一
  • 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
  • 発売日: 2018/11/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ギグエコノミーとは従来の雇用とは異なる一時的な仕事を不定期でする人々が増えるようになってくることから生まれている経済的価値を指す。ページ49
企業のすべての活動を一連のプロジェクトに分け、過不足のない労働力を投入してこなすと言う考え方は、かつては理論の上だけにとどまると考えられていたが、労働市場の効率化が進んだ現在、その理論は現実になり得る。ページ83
あなたのブランドとは、あなたが部屋にいないときに他の人たちがあなたについて言うことだ。ページ105
コンサルタントとしての独り立ちには一連のリスクが伴う。独立に踏み切る前に考えるべき問題は、大きく3つある。まず誰かが買おうとする専門能力を本当に持っているか。…売れる能力を持っているなら、2つの問題について考えることになる。1つはどれだけの年収が必要か。もう一つは自分のライフスタイルを維持しているだけの市場があるか。ページ107
独立コンサルタントは自分自身の会社のCEOなので、この欠点は致命的になりかねない。数々の理由から、顧客にノーと言う必要があるからだ。第一に、顧客に対して間違っていると言えなければならない。…第二に、顧客からプロジェクトの範囲外のことを求められた場合には、そのことを相手に伝える必要がある。…そしてもう一つ、顧客から自分の領域外の仕事を頼まれた場合にも、やはりノート言う必要がある。ページ112
業種を問わず、ブランディングは中核にある価値に基づく。簡単に言うと、あなたのブランドとは、あなたの存在が意味するものに他ならない。あなたは、どんな価値を提案できるのか。あなたが提供するサービスに、顧客はどのような有形無形の特質を見いだすのか。あなたのブランドは、顧客に対してどのような相互作用を生み出すのか。その相互作用を踏まえて、あなたはどのようなブランドパーソナリティー(ブランド個性)を持つのか。ページ114
価値提供は要石のようなものであり、慎重に賢く練り上げる必要がある。・満たそうとするニーズ ・そのに対処するアプローチ ・そのニーズを満たす上での費用対効果 ・そのニーズを満たす上で市場に存在する競争  この4つの側面から自分の仕事を捉えることによって、価値提案が固まり、市場における自分のポジショニングにつながる。ページ120
LinkedIn 世界で数億人が利用するLinkedInは、今やあらゆるコンサルタントにとって必須だ。ページ131
Twitterについて学ぶ  初めて使う人は、まずTwitterの仕組みを知ろう。とにかく、自分に最も合うと思うものを選んで取り掛かろう。それが済んだら、自分のプロフィールを完成させる。ページ136
必ずリプライする  あなたに対するツイートや、あなたのことに触れたツイートがあったら、必ず謝意を伝えて会話が続くようにしよう。リツイートされたら(お気に入り)に入れておくようにしよう。会話に入ってくる人が増えることになるからだ。ページ138
1%ルールが役立つ この点についても私は最初の本で有用な目安として取り上げた。1日の報酬は、年収の1%相当が適当だ。…ただし料金を左右するのは自分の格などではなく、仕事の中身であると言うことを忘れないようにしよう。ページ154
売り込みの鍵は、その商品を信じることにある。自分は顧客に成果を提供できると本当に信じていれば、結果はついてくる。ベテランのコンサルタントたちは、そうした形で仕事を得ている。ページ158
あなた自身の業界団体やデジタルコミュニティーに、若手世代のインデペンデントワーカーの相談に乗れる場があるかもしれない。統計データは、ギグエコノミーに加わる働き手が大きく増えるであろうことを示している。彼らが成功を収められるように、手ほどきをするべきだ。ページ289

ソーシャル・ビジネス革命

「ソーシャル・ビジネス革命」を読みました。グラミン銀行ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の著作です。冒頭に、グラミン銀行設立の動機と奮闘について短い紹介があります。人間は、「利己的」であるが「利他的」でもある存在だから、利益最大化の目標だけで、経済全てが説明できるわけではないと論じています。社会問題(貧困など)の解決には、非営利組織(NGOや慈善団体)だけでは持続性が乏しいので、この「ソーシャル・ビジネス」を考えついたそうです。「ソーシャル・ビジネス」は、社会や会社の「思いやり」で資本をあつめ、「利益」という魔法の杖を使って、社会問題を解決する仕組みです。資本主義の原理に則り社会問題を解決する仕組みです。現実的で実行可能な考え方に感服しました。備忘します。

ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム

ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム

ソーシャル・ビジネスの投資家の目的は、金銭的な利益を得ずに他者に手を貸すことだ。しかしビジネスというくらいだから、ソーシャル・ビジネスは持続可能でなければならない。つまり、経費を穴埋めできるだけの収益を生み出す必要があるソーシャル・ビジネスの利益は、一部がビジネスの拡大に再投資され、一部が不測の事態に備えて留保される。従って一言で言えばソーシャル・ビジネスは、社会的目標の実現のみに専念する「損失なし、配当なしの会社」と言えるだろう。ページ19
NGOには確かに世界中で素晴らしい取り組みを数多く行っているが、慈善モデルには特有の弱点もある。私が代替策としてソーシャル・ビジネスという概念を築き上げたのはそのためだ。寄付に頼るのは、組織の持続可能な運営方法とは言えない。NGOのリーダーは資金調達に膨大な時間、労力、資金を注がなければならないし、たとえ資金調達に成功しても、大半のNGOは慢性的な資金不足を抱えており、効果的なプログラムを拡大するどころか、維持することにもないならないからだ。ページ37
…それは、「ソーシャル・マーケティング」という言葉だ。これは70年代に社会学者によって生み出された考え方であり、ビジネス・マーケティングの手法やテクニックを用いて人間の行動を変える、社会に利益をもたらす活動を表す。…名前は似ているが、この種のソーシャル・マーケティングは私の考案したソーシャル。ビジネスとは一切関連はない。ページ40
したがって、私はソーシャルビジネスの設立や参加を誰かに押し付けるつもりはない。しかし、ソーシャル・ビジネスは決して利益を追求したり、所有者に配当支払ったりするものでないという点だけは明記しておきたい。ページ46
今、私たちはワクワクするような時代に生きている。私たちは、ソーシャル・ビジネスを通じて世界に驚くべき良い変化をもたらす絶好の時代を迎えています。…さらに、現代の危機は新しい解決策を大胆に試すチャンスとも言える。ソーシャル・ビジネスは、過去の手段と比べて世界を変えられる大きな可能性を秘めている。なぜならソーシャル・ビジネスの考え方は強力でありながら、柔軟で融通がきくからだ。ソーシャル・ビジネスは誰にも何も強制しない。選択の自由を狭めるどころか広げる。 資本主義制度にもうまく収まり、市場に無数の新規顧客をもたらす可能性を秘めている。既存のビジネス構造を脅かすどころか、活性化させる方法を提案している。ページ66
グラミン・ダノンの場合、目標はバングラディッシュの人々、特に子供の栄養状態を改善することだった。その目標を実現しやすくするために事業計画を変更するのは構わないが、目標を捻じ曲げたり、目標から遠のいたりするような変更は悪い変更だ。この基準があったからこそ、グラミン・ダノンは最初の数ヶ月で様々な意思決定を行うことができたのだ。ページ91
利益は必要条件としては重要だが、最終目的にすべきではない。市場の需要と自分の能力を照らし合わせて、利潤を最大化する方法を探すのではなく、それとは全く違う人間の本能が出発点となる。それは「同情心」(思いやり)だ。ページ100
サービスを提供してソーシャル・ビジネスの目的を満たせるという自信があるなら、一歩踏み出そう。世界に名だたるソーシャル・ビジネスにならなかったとしても、立派なソーシャルビジネスには違いない。重要なのは成功させること。どんなに大胆なソーシャル・ビジネスを計画しても何ヶ月も何年も成功しないまま格闘し続けるのでは、苦しいだけだ。 それこそ一番の過ちだ。ソーシャルビジネスを楽しもう。私たちの掲げる基本原則の1つに、「楽しむ!」というものがある。このモットーを心に留めて日々実践しよう。貧しい人々のニーズを明らかにする際には、話をやたら複雑化しないこと。…単純に考えよう。ページ103
…私は明暗が浮かんだらすぐに実行に移すべきだと考えている。「考えすぎると動けなくなる」という言葉には一理あるのだ。新しい物事を始めるとき、私はできるだけ多くの情報を集める。しかし一旦集め終わったら、思い切って1つ2つ実験を行うのが一番だ。ページ129
ソーシャルビジネスは、営利企業と同じ労働市場から人材を引きつける必要がある。ということは、一般企業に匹敵する給与や福利厚生を与えなければならない。ソーシャル・ビジネスには優秀な経理担当者、マーケティング部長、製造責任者が必要なら、銀行、自動車メーカー、コンピュータ会社と同じ待遇を与えなければならない。ページ136
…ソーシャル・ビジネスの真のパワーは、別のところにある。個人や少人数でも、大企業よりはるかに少ない予算で小さなビジネスをはじめ、ゆくゆくは社会的に影響を与えるビジネスに成長させるチャンスがあるということだ。ページ147
ソーシャル・ビジネスの設立に非営利組織の法的構造用いない最大の理由は、非営利組織には所有者いないからだ。株式も発行できない。しかし、ソーシャル・ビジネスには通常の営利企業と同じように所有者がおり、株式の発行や売買を行うことができる。所有権こそがソーシャルビジネスの大きな特徴だ。ページ177
衣料品会社が医療に関わるというと想像がつかないかもしれないが、日本企業のユニクロは、バングラデシュで衣料品の製造を行うソーシャル・ビジネスを設立し、健康面のメリット届けようと考えている。ページ247
ソーシャル・ビジネスは、急成長する強力なテクノロジーを利用して貧しい人々の境遇や地球環境を改善し、社会を一変させる力を秘めている。さらに、新世代の若者の想像力、責任感、利他心を解き放ち、活かす方法でもあるのだ。ページ273

芸術起業論

「芸術起業論」を読みました。身も蓋もない芸術論です。「売れた作品が良い作品」と言い切っています。面白いです。日本でそれ言ったら嫌われるだろうなあ…。世界の標準では、芸術品の購入動機は、見せびらかしか投機だと言ってます。「なんでも鑑定団」の世界ですね。マチスは天才だが、ピカソは、ストーリー込みで売り込んでいる、だからピカソは消費され後世には残らないかもしれないとの意見です。つまるところ芸術家も商売です。趣味では時間が勿体無い、もっと正直に「金稼ぎたい」というべきです。商売になるのは美大に入るための予備校、成功は大学教授! この著作から10数年、日本の美術界に変革の波は来たのでしょうか? 備忘します。

芸術起業論 (幻冬舎文庫)

芸術起業論 (幻冬舎文庫)

芸術の世界に組み込めば踏み込むほど、アーティスの目的は人の心の救済にあるのではないかと感じるようになりましたが、それなら自身の欲望はっきりさせなければなりません。芸術家は、欲望とどう付き合うかを強く打ち出さなければならないのです。ページ11
身も蓋もないものにはお客さんが乗れる雰囲気があるのです。熱量のある雰囲気がなければお客さんはつかないというのは、自明の理なのです。ページ18
つまりビジネスセンス、マネジメントセンスがなければ芸術制作を続けることはできないのです。ページ19
マルセル・デュシャンが便器にサインすると、どうして作品になったのでしょうか。既成の便器の形は変わらないのに生まれた価値はなんなのでしょうか。それが「観念」や「概念」なのです。これこそ価値の源泉でありブランドの本質であり、芸術作品の評価の理由もにもなることなのです。繰り返しますが、認められたのは「観念」や「概念」の部分なのです。ページ20
金銭を賭けるに足る物語がなければ芸術作品は売れません。売れないなら西洋の美術の世界では評価されません。この部分を日本の芸術ファンは理解できない、理解したくないんです。ページ23
僕は、自分の作品が理解される窓口を増やすために、自分や作品を見られる頻度を増やすことを心がけています。媒体に出る。人に晒す機会を増やす。大勢の人から査定してもらう。ヒットというのは、コミニュケーションの最大化に成功した結果です。ページ26
芸術で未来を開拓したいのならば芸術の状況を客観的に見なければならないのですが、日本では客観的に作品を判断する「批評」が存在していません。これは大きな問題です。欧米での芸術の仕事を通して僕が実感しているのは「本当の批評は創造を促す」ということです。ページ36
営業しなければものは売れない。待っているだけでは状況は変わらない。つまり芸術作品は自己満足であってはならない。価値観の違いを乗り越えてでも理解してもらうという客観性こそが大切なことなんです。価値観の違う人にも話しかけなければ、未来は何も変わらない。こういう世界共通の当然の話が、日本の若いアーティストの頭から抜けている…。ページ38
ぼくは44年の歴史に、最近300年ほどの日本の美術の歴史の文脈を用意周到に関連づけてみました。これは特別なことではありません。個人の持つブランドを商品にすることは、現実の世界で行われ続けています。ページ75
芸術作品の現実は「投機対象になる商品」ですから。流通市場を見据えて作品制作の過程から何をどうして仕込んでいくのかが勝負になると思います。そこでは当然、大勢の人が関わったほうがいい作品になります。ページ130
日本人の説明は真面目一辺倒でつまらなくなりがちですが、ものを伝えることは娯楽だと割り切らなければなりません。興味を抱かせて、楽しませて、引き込んでゆく。文化の違う国とビジネスをするときにはただありのままの説明だけでは不十分です。作品からは1つではなくいくつものセールスポイントを提供できなければなりません。ブランド化できるかどうかはそこが分かれ目だと思うのです。ページ135

床ずれ博士の在宅介護

「床ずれ博士の在宅介護」を読みました。10年前の本です。褥瘡学会を立ち上げた日本の権威です。それまでの誤った治療法に異を唱え、褥瘡治療の原理原則を打ち立てました。最近の「褥瘡ガイドブック」「在宅・褥瘡予防・治療ガイドブック」によると、先生の主張通り、間違った治療法の訂正、新しい有効な治療法がいくつも載っていました。結果として褥瘡の著しい改善が報告されています。本書で、体圧分散マットレスの使用は必須で、マットレスが良くなければ治療はおぼつかないと喝破しています。備忘します。

床ずれ博士の在宅介護 (朝日新書 93)

床ずれ博士の在宅介護 (朝日新書 93)

車椅子やエアマットは、患者さんの体に直接触れるものです。もし体に合わないものを使った場合には、簡単に床ずれの原因になってしまいます。…床ずれを予防すること、あるいはできてしまった床ずれを治療していくことが、介護においては最も重要なポイントであると言っても過言ではありません。ページ44
介護職や看護師の適切なケアと体位交換、床ずれを作らないために優れた体圧分散マットレスの使用が必須条件なのです。また、栄養不足も床ずれにつながるので栄養管理をきちんと行うことも重要です。ページ107
傷口が開いた状態では、じゅくじゅくとした浸出液が出ます。消毒剤はこれに接するとすぐにその効果を失ってしまいます。消毒薬をつけても細菌は減少しません。むしろ、正常な働きをしている細胞まで破壊してしまうため、傷口を直そうとする働きをも止めてしまうのです。こうした傷の場合には、生理的食塩水や水道水で充分洗浄する方が、効果あります。そのあとで湿潤環境を保つための治療を行うのです。ページ116
床ずれは、基本的に何かが体と接触することで起きるものです。体に接触するものを、床ずれを起こしにくいものにすることが予防と治療に繋がることになります。例えば、寝たきりの患者さんにとっては、24時間ずっと体を密着させているのはベッドのマットレスです。マットレスがいいものでなければ、いくらいい治療や看護行っても床ずれは良くなりません。ページ126
ベッドと同様、患者さんの体にずっと接触しているのが車椅子です。車椅子も同じく、患者さんの体にあったものを選ぶべきです。患者さんの体の角度などを測りながら、体に合わせた形にできる高機能な車椅子(module type =調整型車椅子)も開発されていますので、体の状態を見ながらレンタルしていきましょう。ページ130
どんなに高齢であっても、最後までよりよい生活をしようと思ったら、やはり離床して自分で動けるようになることです。とはいえ、寝たきりに近いお年寄りを無理に歩かせ、運動続けさせてもらおうとしても、それは極めて難しいことです。特に目的もなく、ただ「やりなさい」と無理強いするようでは長続きしません。それどころかお年寄りに嫌がられ、そっぽを向かれてしまうことさえあるでしょう。お年寄り自身に生きたいいという気持ちを持って努力してもらうことは、なかなか難しいものです。確固たる宗教を持ってる人、あるいは信念を持っている人は良いのですが、日本人では少数派です。ページ212