「きけわだつみのこえ」の戦後史

「きけわだつみのこえの戦後史」を読みました。戦後300万冊売れたベストセラー「きけわだつみのこえ」が「わだつみ会」という研究会組織を生み、50年以上活動を続けているそうです。この本は、その組織の歴史と批判を綴っています。鎮魂・平和から反軍・反戦天皇制批判から学徒出陣兵批判へ変容していく驚愕の歴史です。初めの理念(鎮魂)は忘れ去られ、名誉と金銭のために薄汚れていく組織の歴史です。
「きけわだつみのこえ」という本は、1948年に出版されています。私は1980年頃に読んで、感動した記憶があります。学徒出陣で死んだ人たちの日記や遺書を載せています。「気の毒な死に方だなあ、戦争はいけない」という感想をいだきました。「きけ」は「耳傾けよ」の意です。「わだ」は「海」、「つ」は「の」、「み」は「霊」です。「わだつみ」とは「海の神」の意です。ですから「きけわだつみのこえ」とは「学生の身分で戦死した人々の声を謙虚に聞いてください」の意味です。一番印象にの残っている詩を転機しておきます。

『きけわだつみのこえ』の戦後史 (文春文庫)

『きけわだつみのこえ』の戦後史 (文春文庫)

寒い泥濘である。
泥濘は果てしない曠野を伸び
丘をのぼり林を抜け
それは俺たちの暗愁のように長い。
・・・・・
愛と美しいものに見離されて
ただひたすらに地の果てに向い
大行軍は泥濘の中に消える。
ながい悪夢のような大行列は
誰からも忘れられて夜の中に消えるのだ。

(田辺利宏作 中国戦線にて)