人間とロボットの法則

「人間とロボットの法則」を読みました。先月、NHKで石黒教授の「最終講義」を視聴しました。本書は、ほぼその内容に添っています。「千年後に人類は無機物になる」という黙示録的な予言です。諦観と技術進歩への確信が生んだ予想です。核ミサイルでも死なない人間が現出するのか? 見ものです。過渡的な段階でロボットやアンドロイドが産業化します。その前髪を捕まえられるかどうかが、私の行く末のキーポイントです。備忘します。

他者と同様に、ロボットも自分自身を映し出す鏡になる。欲求や意図を持ったロボットができれば、ロボットを通して自分とは何かということを理解していることができるだろう。ロボットの研究は人間理解のひとつのアプローチである。ページ12
ある仕事をするための能力において、人間の雇用コストよりも低いコストで行えるロボットができれば当然代替えがすすむ。歴史を振り返れば、様々な仕事が機械化することで人間の仕事を奪ってきた。しかしそのことによって、人間は生産性を大きく向上してきたのである。ページ20
重要なのは人間とロボットを区別することではなくて、ロボットと融合して人間の能力を拡張することである。今の仕事の大半をロボットが代わりに行ってくれるようになれば、人間はより高度な能力が要求されることに集中できるようになる。ページ24
すなわち技術の発達は人間全体の能力の底上げをするが、能力が高い人間とそうでない人間の差を広げるのである。技術はすべての人間の能力を均等に上げるものではないのである。ページ36
永遠に価値が落ちないかどうかは今後の検証が必要だが、アンドロイドによって人間は死後も社会に存在し続けることができるようになるのである。ページ48
エクスタシーによって他者と融合し、他者から学び、アイデンティティーの確立を通して自己を確固たるものにする。これが、人間が社会の中で成長するということである。ページ60
欲求や意図、行動の履歴が記録される必要がある。知覚を伴う行動の記憶を介して、自らの欲求に気づき、環境認識しながら、その要求を満たすための意図を生成することができる。気がついた欲求も生成された意図も、もちろん記録されていく。ページ64
人間の場合は、人間に対する信頼は様々な状況に応じて変化する。同じ人間に対しても状況に応じて信頼度が変わる。この人間的な信頼は社会を構成するために非常に重要である。信頼が成り立っている社会だからこそ、すべてのシュミレーションを行う必要がなく、効率的なシステムを築くことができる。ページ72
この「動き」や「声」「臭い」など人間らしさを表す要素をモダリティという。人間らしさを目指すロボットにおいて、モダリティが多い状態だと、違和感を抱かれやすい可能性が高くなる。逆に、モダリティを減らし、人間らしい特徴を削ぎ落とすとどうなるか。そうすると今度は、人間が足りないモダリティを自身の想像で補うようになる。足りないモダリティを受け手が都合よく補うため、精巧さを目指したAndroidよりも人間らしい印象与えることができる。ページ74
ケアセンターや認証治療の病院で言われるのは、高齢者にとって会話は、とても重要だということである。認知症の進行の抑制や要介護状態の予防にもつながるという。ページ82
人間は少ない情報を元に物事をいきなり一般化するが、実はこれは非常に重要な性質である。すべての情報を集めてから正確に判断しようとするとあまりに非効率なのである。ページ86
もしロボットと人間の一対一だった場合、完全な音声認識がなかったら、人間が何か答えても、その対応は時折、破綻し、対話感を得ることは難しいだろう。音声認識が完全な場合においても、破綻しない対話を続けるには、ロボット二台でストーリーを展開しながら、そこに人間を巻き込む仕組みが必要である。ページ94
客観的な情報だけを積み重ねてもすぐに議論は収束してしまう。合間合間に主観的意見が入ることによって、対話が続くことになる。相手の個性やアイデンティティーを認識することにもなる。これが共に食事をするということの本質であり、主観と客観の間で間の情報交換を楽しんでいるのである。ページ104
現代の人間の活動に改めて目を向ければ、技術なしにはほとんど何もできない状態になっている。乱暴に言えば、人間の活動の90パーセントは技術によってなされていると考えることができ、そのことは人間が90パーセントは技術であり、機械であることを示しているように思う。ページ108
技術の開発がすすむということは、人間の機械化が進むということにほかならない。人間は技術開発によってその能力をどんどん技術に置き換えている。そして人間の中の動物的な部分はどんどん小さくなりつつある。ページ118
複雑な構造を持つタンパク質などの有機物は、環境適応力が高い。一方で、その構造は壊れやすく寿命は限られている。有機物の最終進化の形態として生まれた人間の役割は、有機物が進化の過程で獲得した知能を寿命がはるかに長い無機物の体に移し替えることである。言い換えれば、有機物は知能化のための一時的な形態に過ぎない。ページ124