動的平衡3

動的平衡3」を読みました。 福岡先生の最新刊です。文章がとても上手で読みやすいです。内容も「動的平衡」で統一されていて「動的平衡2」のがっかり感はありませんでした。「動的平衡」の福岡先生の考えがさらに深まったように思います。私も強く影響されています。会社組織もこの動的平衡にあると考えるようになりました。だまし絵のフィッシャー論を含め芸術と科学が同根であることがよくわかりました。備忘します。

「教養」と「物知り」の違いも、この辺にあるのではないだろうか。教養とは知識が時間軸に沿って、その人の体験の中にきちんと組織化されていること。一方もの知りはネットのアーカイブのような知識の羅列でしかない。ページ9
生命にとって、エントロピーの増大は、老廃物の蓄積、加齢による酸化、タンパク質の変性、遺伝子の変異…といった形で絶え間なく降り注いでくる。油断するとすぐにエントロピー増大の法則に凌駕され、秩序は崩壊する。それは生命の死を意味する。これと戦うため、生命は端から頑丈に作ること、すなわち頑丈な壁や鎧で自らを守るという選択を諦めた。 そうではなく、むしろ自分を柔らかく、ゆるゆる・やわやわに作った。その上で自らを常に壊し分解しつつ、作り直し、更新し、次々とバトンタッチするという方法とった。この絶え間のない分解と更新と交換の流れこそが生きているということの本質であり、これこそが系の内部に溜まるエントロピーを絶えず外に捨て続ける唯一の方法だった。動きつつ、釣り合いを取る。これが動的平衡の意味である。ページ13
脳は生命にとっては実は「中枢」ではない。むしろ知覚・感覚情報を集約し、必要な部局に中継するサーバ的なサービス業務をしてるにすぎない。情報に対してどのように動くかはローカルな個々の細胞や臓器の自律性に委ねられる。ページ16

逆に言えば、私たちはすでに普段、ミクロな細胞レベルで、必死にアンチエイジングをしているのである。必死にアンチエイジングを行っても、結果的にエントロピー増大の法則という名の風化作用に、徐々に負けていくプロセス、それが老化なのである。ページ47
「記憶は死に対する部分的な勝利である」とはイギリスの小説家カズオイシグロの名言である。記憶だけが流転し、消滅し続ける世界に私をつなぎとめ、私が私であることを証てくれるものであると。ページ70
生命にとって重要なのは、作ることよりも、壊すことである。細胞はどんな環境でも、いかなる状況でも、壊すことをやめない。むしろ進んでエネルギーを使って、積極的に、先回りして、細胞内の構造物をどんどん壊している。なぜか。生命の動的平衡を維持するためである。ページ81
21世紀、がん治療に何らかの革新があるとすれば、それは敵と直接対決するのではなく、むしろあらかじめ体に備わっている味方の力を応援し、増強することにこそ活路があるのではないか、という示唆がある。それはとりもなおさず動的平衡から生命を捉えなおすということでもある。私はここに希望を感じる。ページ116
それ故、もし究極のがん治療があるとすれば、それは内なる敵としてのがん細胞と正面から戦うことではない。むしろ、がん細胞に「君は元々ちゃんとした大人の細胞だったはずだろう。正気を取り戻した前」と諭すことである。それによって、がん細胞ははっと我に返り、自らを取り戻すことができるなら、それが最も有効ながん治療法となるはずだ。ページ132
もともと親がアレルギー体質である場合、帝王切開によって生まれた子供の方が、正常分娩で生まれた子供に比べ、アレルギー疾患のリスクが高まるというデータがある。乳酸菌やビフィズス菌のような善玉菌によって腸内細菌のコロニーが優勢な状態になっていることが、免疫系を安定させ、過剰な反応、すなわちアレルギーを起こしにくくしている、ということが言える。ページ198
人間は、栄養価の高い食物を加工することによって、必須アミノ酸を安定して得ることに成功したが、一方で、微生物との共生関係を維持することによっても生存率を高めた。それが腸内細菌だ。ページ205
腸内細菌は宿主が摂取した食物を掠め取るが、それ以上に宿主に対して貢献している。宿主が利用できない繊維分などを代謝して栄養に変え、それを宿主に戻す。宿主が合成できないビタミンやアミノ酸を供給する。これら腸内細菌の寄与がなくなってしまうと、宿主はその分、余計にカロリーや栄養素を摂取しなければならなくなる。ページ206