口語 養生訓

「口語 養生訓」を読みました。 300年前の健康指南書です。森信三「終身教授録」に、まともに性欲を語っている本は「養生訓」しかないとのことでした。「接して漏らさず」があるのかどうか、興味深く全文を読んで見ました。ありました! 「…精気をしばしば漏らせば、大いに元気を費やすので、老年の人にはよろしくない。そこで、四十以上の人は、交接はしばしばしても、精気は漏らしてはならない」と。しかし内容のほとんどは食事のことです。他に、入浴法や睡眠の姿勢、唾や痰、運動など、江戸のはじめの頃にすでに現代の健康法を知っているとは驚きでした。備忘します。

口語 養生訓

口語 養生訓

養生の術を務めて学び、長い期間実行すれば、体丈夫になって病気もせず、天寿を全うし、長いこと人生を楽しめるのは、当然のことである。ページ4
そもそも養生の道は内欲をこらえることが基本である。基本をしっかりと実行すれば、抵抗力が強くなり、外邪に犯されなくなる。内欲を慎まないで抵抗力が弱くなれば、外邪に傷つけられやすくなり、大病になって天寿を全うできない。内欲をこらえる重要な項目は、飲食を適度に抑え、過食や過飲をしないこと。胃腸を痛め、病気を引き起こすようなものを食べないこと。色欲を謹んで精気を惜しむこと。ページ6
<風・寒・暑・湿>の外邪を防がないのは怠慢である。飲食、好色の内欲を耐え忍ばないのは過失である。怠慢と過失とは、皆慎まないことから起こるのである。ページ13
身を保って生を養うのに、最高の秘訣となる一字がある。…では、その一字とは何か。「畏」である。「畏れる」、すなわち畏怖、畏敬の心を持つことは、身を守る心がけである。ことにあたっては、細心の注意を払い、勝手気ままにせず、過ちもないことを求め、常にお天道様を全て慎み従い、人の欲を畏れて慎み忍ぶことである。ページ14
体は日々少しずつ動かすべきである。長時間安楽に座っていてはいけない。毎日食後に必ず庭や田畑の中を数百歩静かに歩きなさい。雨の日は、室内を何回もゆっくりと歩きなさい。ページ18
「聖人は未病を直す」とは、病気になる前からあらかじめ慎んでおけば、病気にはならない、ということである。もし隠喰や色欲などの内欲を堪えず、、風・寒さ・暑さ・湿気などの外邪を防がなければ、その時の害は少しでも、後で病気になった時の害は大きい。ページ37
酒食が、まだ消化吸収しないうちに、横になって眠れば、必ず酒食が滞り、気が下がって病となる。注意すべきである。昼間は決して横になってはいけない。大いに元気を損なう。もし、ひどく疲れたなら、うしろに寄り掛かって眠りなさい。どうしても横になって眠りたい時は、傍に人がいるところで少し眠り、適当なところで起こしてもらいなさい。ページ46
心を静かにして騒がしくせず、緩やかにして迫らず、気持ちを新たにして荒くせず、言葉を少なくして声を高くせず、高笑いせず、常に心を喜ばせてみだりに怒らず、悲しみを少なくし、もとに戻らないことをいつまでも悔やまず、過ちがあったならいちどだけ自分を責めてに悔やまれず、ただ天命を受け入れて悔やまな。これらは心を養う道である。ページ50
唾は飲み込むべきで、吐くべきではない。痰は吐くべきで、飲むべきではない。痰が出たら紙に取るべきで、遠くへ吐いたりしてはいけない。ページ60
大抵のことはあまり完璧にしようとすると、心の煩い煩いとなって楽しみがなくなる。災いもここから起こる。また、他人は、自分に対して十分によくしてくれるものだと思っていると、人の行為に満足できず、起こったり咎めたりして、心の煩いとなる。また日用の飲食・衣服・道具・住まい、庭や鉢植えの草木などの品々、皆華美なものを好んではならない。少しばかりよければ、ことが足りる。完璧に良いことものを好んではならない。これは私の「気」を養う工夫である。ページ65
思いを少なくして神を養い、欲を少なくして精を養い、飲食を少なくして胃を養い、言を少なくして気を養うべきである。これが養生の4つも少なくすべきこと。「四寡」である。ページ77
朝食がまだ消化していなければ、昼食をとってはいけない。菓子などの間食をとってもいけない。昼食がまだ消化していなければ、夕食を食べてはならない。前夜の夕食がまだ滞っていれば、朝食をとってはいけない。もし前の食事が消化していなくても、次の食事を取りたいときは、量を半分に減らし、酒や肉を断つべきである。ページ109
中年以降は「元気」が減るので、男女の色欲はだんだんと衰えてくるものだが、飲食の欲は止まない。老人は胃腸が弱い。このため、飲食に痛められやすい。老人が急に発病してしまうのは、多くは暴飲暴食や食あたりの類である。慎むべきである。ページ111
怒った後、すぐ食事してはならない。食後怒ってはならない。憂いながら食事してはならない。食べた後、憂えてはならない。ページ150
タバコは毒性があり、煙を吸うと、目眩がして倒れることがある。習慣になれば、ひどい害はなくなって、少しは役に立つこともあるとは言え、損失の方が多い。病気を引き起こすことがある。また、火災の心配がある。習慣になると癖になって、意地汚く欲しがり、やめるのが困難になる。タバコを吸うとやることが多くなって仕事が面倒になり、下男を煩わすことになる。貧しい者にとっては、出費もバカにならない。タバコは、初めから吸わないに越したことはないである。ページ178
四十以上の人は、まだ「血気」がひどく衰えておらず、枯れ木や灰になったわけではないので、情欲をしのぐのは難しい。しかし、精気をしばしば漏らせば、大いに元気を費やすので、老年の人にはよろしくない。そこで、四十以上の人は、交接はしばしばしても、精気は漏らしてはならない。ページ185
髪はよく、櫛削りなさい。そうすれば、気めぐり、のぼせた気は下りる。櫛の歯があまり密なのは、髪が抜けやすくなってよくない。歯は、しばしば軽く打ち鳴らしなさい。歯を硬くして、虫歯にならない。時々、両方の手をすり合わせて温め、その手で両眼を温めて伸ばすようにする。目を明らかにして風を去る。ページ193
夜横になるときは、必ず脇を下に、横向いて寝なさい。仰向けに寝てはいけない。仰向けに寝れば気がふさがって、うなされることがある。胸の上に手をおいてはならない。滅入って気が下がり、うなされやすい。この2つを注意しなさい。ページ204
湯治して、その病気にならないどころか、ほかの病気まで引き起こして死んだ人が多い。用心すべきである。…入浴の回数は、体力がひどくない病人でも、いちにちに3回より多いのはよくない。虚弱な人は1、2回にとどめること。日の長短によっても加減すべきである。頻繁に入浴するのは、甚だよくない。ページ223
冷水で浴してはならない。暑さがひどいときでも、冷たい水で顔洗えば目を損なう。冷たい水で手足を洗ってはいけない。ページ235
老いの身になると、余命のそう長くないことを思い、心構えも若い時と違ってくる。心を静め、用事を少なくし、人と交わりもまれにすることが、年に似合いで、よろしいのではないか。こういうのもまた老人の気を養う道なのである。ページ341
老いると「気」が少なくなる。「気」を減らすことを避けなさい。まず第一に、怒ってはならない。そして、憂えたり、悲しんだり、泣いたり、嘆いたりしてはならない。葬式や喪に関わらしてはいけない。死を弔ってはならない。ページ343