ソーシャル・ビジネス革命

「ソーシャル・ビジネス革命」を読みました。グラミン銀行ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の著作です。冒頭に、グラミン銀行設立の動機と奮闘について短い紹介があります。人間は、「利己的」であるが「利他的」でもある存在だから、利益最大化の目標だけで、経済全てが説明できるわけではないと論じています。社会問題(貧困など)の解決には、非営利組織(NGOや慈善団体)だけでは持続性が乏しいので、この「ソーシャル・ビジネス」を考えついたそうです。「ソーシャル・ビジネス」は、社会や会社の「思いやり」で資本をあつめ、「利益」という魔法の杖を使って、社会問題を解決する仕組みです。資本主義の原理に則り社会問題を解決する仕組みです。現実的で実行可能な考え方に感服しました。備忘します。

ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム

ソーシャル・ビジネス革命―世界の課題を解決する新たな経済システム

ソーシャル・ビジネスの投資家の目的は、金銭的な利益を得ずに他者に手を貸すことだ。しかしビジネスというくらいだから、ソーシャル・ビジネスは持続可能でなければならない。つまり、経費を穴埋めできるだけの収益を生み出す必要があるソーシャル・ビジネスの利益は、一部がビジネスの拡大に再投資され、一部が不測の事態に備えて留保される。従って一言で言えばソーシャル・ビジネスは、社会的目標の実現のみに専念する「損失なし、配当なしの会社」と言えるだろう。ページ19
NGOには確かに世界中で素晴らしい取り組みを数多く行っているが、慈善モデルには特有の弱点もある。私が代替策としてソーシャル・ビジネスという概念を築き上げたのはそのためだ。寄付に頼るのは、組織の持続可能な運営方法とは言えない。NGOのリーダーは資金調達に膨大な時間、労力、資金を注がなければならないし、たとえ資金調達に成功しても、大半のNGOは慢性的な資金不足を抱えており、効果的なプログラムを拡大するどころか、維持することにもないならないからだ。ページ37
…それは、「ソーシャル・マーケティング」という言葉だ。これは70年代に社会学者によって生み出された考え方であり、ビジネス・マーケティングの手法やテクニックを用いて人間の行動を変える、社会に利益をもたらす活動を表す。…名前は似ているが、この種のソーシャル・マーケティングは私の考案したソーシャル。ビジネスとは一切関連はない。ページ40
したがって、私はソーシャルビジネスの設立や参加を誰かに押し付けるつもりはない。しかし、ソーシャル・ビジネスは決して利益を追求したり、所有者に配当支払ったりするものでないという点だけは明記しておきたい。ページ46
今、私たちはワクワクするような時代に生きている。私たちは、ソーシャル・ビジネスを通じて世界に驚くべき良い変化をもたらす絶好の時代を迎えています。…さらに、現代の危機は新しい解決策を大胆に試すチャンスとも言える。ソーシャル・ビジネスは、過去の手段と比べて世界を変えられる大きな可能性を秘めている。なぜならソーシャル・ビジネスの考え方は強力でありながら、柔軟で融通がきくからだ。ソーシャル・ビジネスは誰にも何も強制しない。選択の自由を狭めるどころか広げる。 資本主義制度にもうまく収まり、市場に無数の新規顧客をもたらす可能性を秘めている。既存のビジネス構造を脅かすどころか、活性化させる方法を提案している。ページ66
グラミン・ダノンの場合、目標はバングラディッシュの人々、特に子供の栄養状態を改善することだった。その目標を実現しやすくするために事業計画を変更するのは構わないが、目標を捻じ曲げたり、目標から遠のいたりするような変更は悪い変更だ。この基準があったからこそ、グラミン・ダノンは最初の数ヶ月で様々な意思決定を行うことができたのだ。ページ91
利益は必要条件としては重要だが、最終目的にすべきではない。市場の需要と自分の能力を照らし合わせて、利潤を最大化する方法を探すのではなく、それとは全く違う人間の本能が出発点となる。それは「同情心」(思いやり)だ。ページ100
サービスを提供してソーシャル・ビジネスの目的を満たせるという自信があるなら、一歩踏み出そう。世界に名だたるソーシャル・ビジネスにならなかったとしても、立派なソーシャルビジネスには違いない。重要なのは成功させること。どんなに大胆なソーシャル・ビジネスを計画しても何ヶ月も何年も成功しないまま格闘し続けるのでは、苦しいだけだ。 それこそ一番の過ちだ。ソーシャルビジネスを楽しもう。私たちの掲げる基本原則の1つに、「楽しむ!」というものがある。このモットーを心に留めて日々実践しよう。貧しい人々のニーズを明らかにする際には、話をやたら複雑化しないこと。…単純に考えよう。ページ103
…私は明暗が浮かんだらすぐに実行に移すべきだと考えている。「考えすぎると動けなくなる」という言葉には一理あるのだ。新しい物事を始めるとき、私はできるだけ多くの情報を集める。しかし一旦集め終わったら、思い切って1つ2つ実験を行うのが一番だ。ページ129
ソーシャルビジネスは、営利企業と同じ労働市場から人材を引きつける必要がある。ということは、一般企業に匹敵する給与や福利厚生を与えなければならない。ソーシャル・ビジネスには優秀な経理担当者、マーケティング部長、製造責任者が必要なら、銀行、自動車メーカー、コンピュータ会社と同じ待遇を与えなければならない。ページ136
…ソーシャル・ビジネスの真のパワーは、別のところにある。個人や少人数でも、大企業よりはるかに少ない予算で小さなビジネスをはじめ、ゆくゆくは社会的に影響を与えるビジネスに成長させるチャンスがあるということだ。ページ147
ソーシャル・ビジネスの設立に非営利組織の法的構造用いない最大の理由は、非営利組織には所有者いないからだ。株式も発行できない。しかし、ソーシャル・ビジネスには通常の営利企業と同じように所有者がおり、株式の発行や売買を行うことができる。所有権こそがソーシャルビジネスの大きな特徴だ。ページ177
衣料品会社が医療に関わるというと想像がつかないかもしれないが、日本企業のユニクロは、バングラデシュで衣料品の製造を行うソーシャル・ビジネスを設立し、健康面のメリット届けようと考えている。ページ247
ソーシャル・ビジネスは、急成長する強力なテクノロジーを利用して貧しい人々の境遇や地球環境を改善し、社会を一変させる力を秘めている。さらに、新世代の若者の想像力、責任感、利他心を解き放ち、活かす方法でもあるのだ。ページ273