現場論

「現場論」を読みました。現在の仕事のために再読しました。7年前、前職で初めて製造会社を任せられました。社長として、どのように方針を示すか悩んでいました。そのときに一番影響を受けた本です。著者の遠藤功氏は「見える化」という言葉を世の中に普及させた方です。当時、心して読みました。
会社には「平凡以下の工場」「平凡な工場」「非凡な工場」があり、一足飛びに「非凡な工場」になることはない、すぐにはトヨタデンソーにはなれないのです。まずは「平凡な工場」にすることが大事で、そのためには「規律を守らせることだ」と断言しています。工夫や革新には「自由」が必要だが、まずは「規律遵守」から手をつけるべきだと延べています。その通りに取り組んだら、生産効率上昇、ひいては利益がゆっくりと増えました。「非凡な工場」にすることはできませんでしたが、この本のおかげで危機を脱することができました。著者のインタビュー記事と本文を備忘します。

現場論: 「非凡な現場」をつくる論理と実践

現場論: 「非凡な現場」をつくる論理と実践

  • 作者:遠藤 功
  • 発売日: 2014/10/24
  • メディア: 単行本

「企業が業績不振になると、本社や経営陣が叩かれ、経営戦略がまずいといわれる。しかし、一方の現場はどうか、きちんと機能しているのか。…」
 これまで訪れた現場は400を超える。そこから見えてきたのは、日本企業の「現場」の特殊性だ。生産の場において自立的、自主的に問題を解決する力を備え、それを成しうるナレッジワーカー(知的労働者)も多い。
 上からの統制的な指示に従うのが一般的な海外企業の生産の場とは、そこが大きな違い。 ところが近年、「これはすごいと思える“非凡な現場”は10%程度にすぎない。与えられた業務をこなすだけではなく、自ら課題を見出し、軌道修正する能力を持った現場が、かつての日本企業の成長を支えた基盤だった。今、それが痩せ衰えている。
 これまでの著作では、現場力の重要さを訴えはしたものの、現場力をどう鍛えるか、その方策を示してこなかった。本書では「現場を強くする道筋」を説くことに力を入れた。
「現場だけを改善しても『非凡な現場』にはならない。本社主導でもうまくいかない。現場の潜在能力をどうすれば解放できるのか、それを考え実践する必要があります」
「本社主導、戦略重視の欧米的な経営から、いま一度、足元の現場に立ち戻り、競争力を組み立て直してほしい。現場が強い企業は、世界で勝てます」と著者。その処方箋は本書に詳らかだ。(「現場論」著者インタビュー記事の抜粋)

現場力という組織の力は、次の3つの異なるの力による重曹構造になっている。①保つ能力、②より良くする能力、③新しいものを生み出す能力 ページ89
業務遂行主体である現場にとって基盤となるものは、言うまでもなく「確実に業務を遂行する能力」である。価値創造のために決められた仕事を決められたように確実に遂行する。それができなければ現場の本文を果たすことができない。私はこれを「保つ能力」と呼んでいる。ページ91
仕事のやり方や手順を定める標準作業、目標コストを定める標準コスト、目標納期を定める標準納期等、業務遂行に必要な標準を明確に定めて明文化し、周知徹底させ、確実に実現。ページ93
生産性の低い現場には「しか」が実に多い。私「しか」できない。彼に「しか」任せられない。これ「しか」やらないなど、仕事が属人化し、放置されたままになっている。標準化が全く進んでいないのだ。一方、生産性の高い現場では。「でも」が多い。誰「でも」できる。新人「でも」こなせるなど、標準化が確立され、誰にとっても当たり前になっている。ページ94
「より良くする能力」とは「微差力」である。現場が創意工夫によって積み重ねていく、日々の改善によって現場の体幹が鍛えられ、骨太の組織能力へと進化を遂げる。「微差」を生み出すことができる現場とそうでない現場には決定的な差がある。ページ98
「非凡な現場」は「より良くする」ことだけでは満足しない。日々の業務を遂行しながら、まったく新しい価値を生み出す革新的な取り組みを行っている。これを「新しいものを生み出す能力」と呼ぶ。ページ162
創造は自由から生まれる。いやその中からしか生まれない。現場起点の改善や革新を見出そうとするならば、現場の自由度を高めることが必須だ。現場の権限、裁量権を高めることによって、現場の創造性を喚起する。ただし、明確な順番があることを忘れてはならない。「規律の遵守」こそが何よりも優先するべきことである。規律も担保できない現場に、裁量権はありえない。規律と言う土台があってこそである。ページ110
「平凡以下の現場」に成り下がってしまった現場に対する処方箋は1つしかない。それは、とにかく「平凡な現場」に取り戻すことだ。ページ117
「非凡な現場」には例外なく愚直さと言う共通点がある。愚直さに触れずに現場力と言う組織能力を論じることができないのだが、愚直と言う言葉を持ち出すとどうしても精神論根性論の色彩が全面的に出てしまう。157
「より良くする能力が」現場になければ、効率性、生産性は著しく劣化し、やがて企業が競争力を失う。保つ能力だけではコストを肥大化し、熾烈な競争に勝ち残ることができない。ページ223
現場に標準は欠かせない。標準なき現場は法律なき社会と同じだ。共通の拠り所がなければ、無秩序と混乱を招く。ページ255
言い訳は、「忙しい」「時間がない」。せっかく現場で改善の気づきがあっても、それをシートに記入したり、パソコンから入力するのが面倒、その時間が取れないと言う理由でうやむやになってしまうことが実に多い。ページ260
現場は、経営者の「写し鏡」である。「より良くする能力」「新しいものを生み出す能力」をコア能力にしようと経営者が思わない限り、現場が能動的に新たな能力を構築することはありえない。経営者が「保つ能力」のままで良いと思っていれば、現場はそれ以上のことをやろうとはしない。経営者が「保つ」ことにすら興味を持たなければ、現場はやがて「保つ」こともできなくなるだろう。ページ323