ペスト

カミュの「ペスト」をキンドルで読みました。40年ぶりの再読です。コロナ(武漢ウィルス)騒ぎの中で、不安解消を求めて読んでみました。今後の人間の対処を予想できたら少しは楽になるかと… ついでに、誤読がないようにNHKオンデマンドで100分de名著「ペスト」(2018)も視聴しました。アマゾンの「あらすじ」は、以下のようです。
アルジェリアのオラン市で、ある朝、医師のリウーは鼠の死体をいくつか発見する。ついで原因不明の熱病者が続出、ペストの発生である。外部と遮断された孤立状態のなかで、必死に『悪』と闘う市民たちの姿を年代記風に淡々と描くことで、人間性を蝕む『不条理』と直面した時に示される人間の諸相…を寓意的に描き込み圧倒的共感を呼んだ長編。」
理不尽なペスト蔓延に対するさまざまな人の生き様を語っています。希望的観測が裏切られ続ける状況に慣れてくると希望も抱かなくなる状況を描いています。死者に対して、はじめは悲嘆や悲しみがあっても、慣れてくると、感情が薄くなってくると描写しています。
主人公の医師、リウーの疫病克服物語ではありません。リウーは「絶望に慣れることは絶望そのものよりもさらに悪い」「不条理なペストに対して誠実に職務を果たすことが唯一の戦う方法だ」と語っています。
この歳まで生きているといろいろな事を経験します。東日本大震災しかり、今回のパンデミックしかりです。今回の騒ぎで、無用に怖れたり、楽観視したり、嘆いたり、他人をなじるのではなく、自分にできることを淡々と実行するしかないと思いました。
尚、訳文がこなれていないので、難儀しましたが、40年前には都市回復物語として読んでいました、誤読です。備忘します。

ペスト (新潮文庫)

ペスト (新潮文庫)

  • 作者:カミュ
  • 発売日: 1969/10/30
  • メディア: ペーパーバック

天災というものは、事実、ざらにあることであるが、しかし、そいつがこっちの頭上に降りかかってきたときは、容易に天災とは信じられない。この世には、戦争と同じくらいの数のペストがあった。しかも、ペストや戦争がやってきたとき、人々はいつも同じくらい無用意な状態にあった。ページ10%
(リウー)「…しかしペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです」 「どういうことです、誠実さっていうのは?」と、急に真剣な顔つきになって、ランベールはいった。 「一般にはどういうことか知りませんがね。しかし、僕の場合には、つまり自分の職務を果すことだと心得ています」ページ50%
天災ほど観物たりうるところの少ないものはなく、そしてそれが長く続くというそのことからして、大きな災禍は単調なものだからである。みずからペストの日々を生きた人々の思い出のなかでは、そのすさまじい日々は、炎々と燃え盛る残忍な猛火のようなものとしてではなく、むしろその通り過ぎる道のすべてのものを踏みつぶして行く、はてしない足踏みのようなものとして描かれるのである。ページ54%
そして 絶望 に 慣れる こと は 絶望 そのもの よりも さらに 悪い ので ある。ページ56%
当局は寒冷な日々が、この進行を停止させることを期待していたが、しかもペストは季節の初めごろのきびしい気候を、一向ひるむ様子もなく、くぐり抜けて行った。またさらに待たねばならなかった。しかし、人間は、あんまり待っていると、もう待たなくなるものであるし、全市中のものは全く未来というもののない生活をしていたのである。ページ80%