老化の進化論

「老化の進化論」を読みました。「老い」について考えることは「死」について考えることです。「火の鳥」にあるように、永遠の命より、今、精一杯生きることの大切さは頭では理解できても、不死への興味は尽きません。「死」の前の「老い」は避けがたいものなのか? 「老い」を防ぐ方法はあるのか? 回答を求めての読書です。この本は数年前に購入しましたが、考えるのが怖くて本棚に並んだままでした。勇気を出して読んでみました。老化に対する生物学者の見解は、「生殖は寿命を短くする」「カロリー制限は老化防止に役立つ」「不死の薬はつくれない」でした。備忘します。

…人の普通の細胞には分裂の回数に限界があるというkとは決定的に証明されている。なぜか?  1つの説は、細胞はいつか死んで、全身の老化をもたらすようにできていると言うものだ。ページ33
へイフリックはこの点について独創的な主張を展開した。彼の見解によると、細胞分裂の終了が老化を引き起こすのではなく、細胞の老化の原因となるあるプロセスが全身の老化と細胞分裂の終了の両方を引き起こすと言うのだ。…細胞が生体外で成し遂げる継代の回数は、良好な条件下で飼育された場合の最高寿命と強い関連があると指摘した。ページ55
老人は、遺伝的多様性が制御不能になるためさまざまに老いぼれるはずだ。この予測を僕は検証しなければならなかった。つまり、年齢に伴う遺伝的変異の増大である。ページ57
自然選択の力が老化を決定する。10年以上前からあった進化理論の正しさがこの結果で立証されたのだ。ページ72
20世紀のアメリカの去勢された男性に関する興味深いデータが存在する。優生学的な法律の犠牲となって、アメリカの施設で知能の低い男性が数多く去勢されたのだ。同じ施設の未去勢の男性と比べて、去勢されたほうが死亡する頻度が低かった。そして寿命が著しく伸びた。人の場合でも、去勢は生存に役立つのだ。ページ92
…若い頃の生殖は晩年の生存と引き換えになる傾向がある。そして、晩年の自然選択の力の減少が生存に不利に作用するので、進化が作り出すのは精力的なまでに性欲の激しい若者とよぼよぼの年寄りということになるだろう。ページ96
ストレス耐性は老化の先送りと関連があったのだ。…老化を先送りしたり遅らせたりするというのは、より頑丈になることであって、衰弱した状態で何年も細々と生き続けてることではないようだった。80歳代のテニス選手を増やし、施設で寝たきりの人を減らすことだ。ページ114
ハエはたとえ餌が自由に食べられる環境でも、体内にカロリーを多く蓄えていればいるほど長生きする。より多く生殖すると、体内のカロリーが使い果たされる。そして死んでしまう。ページ122
…カロリーと水分を保持することは熱帯産の小さな昆虫が長生きするのに役立つ。僕たちは進化昆虫の老化をコントロールする際に使う生理的手段の1部を発見したのだ。…老化を遅らせるような生理機能がこれでわかる。…カロリー摂取量のような単純なものでも人の老化のプロセスをコントロールする重要な手段になり得ることが示されている。ページ124
食事を腹八分目にする人はそうでない人より長生きすると広く信じられていたのだしかもこれは、人の老化に関する民間の知恵の価値ある情報として何世紀も前から存在していることだ。ページ127
…カロリー制限によって人の健康な期間を伸ばすことが可能だと言う証拠をもたらしてくれている。したがって、食物摂取量を減らしてエネルギーを低下させた生活を送ることをいとわなかった人は、当然長生きするのではないか。ページ142
これは、人の老化には主観制御手段など存在しないと言うことを意味している。老化の問題に関する生物医学研究は、たった一個の種の遺伝子を探せばいいという結論にはならないだろう。ページ157
老化を先送りにしたり、妨げたり、さもなければ緩和したりするには、果てしなく高い死の壁を押し戻す必要はない。死亡率の傾斜路をならして、ことによれば傾斜の頂点の高さを低くすることが必要になる。死は我々が思っていたほど無慈悲なものでは無い。これで人の老化の大幅な先送りに関する限り希望が持てる。ページ174
…僕の好きな老化を表す比喩は「晩年はゴミ埋立地」なのだ。このゴミ埋立地は、若い頃の生殖によって残された汚い物でいっぱいだ。動脈血栓、疲れ切った肝臓と腎臓、酷使された肺、などなど。遺伝子が晩年にもたらすただ単に不運な影響も老化の一因となる。その中には、若い時には関係ないのに高齢者を衰弱させる生化学的欠陥も含まれる。アルツハイマー病の原因はこのタイプの遺伝子がらくたの一例なのかもしれない。進化生物学者は、これら全ての問題を解決するたった1個の「魔法の弾丸」や不老不死の霊薬などないだろうと知っている。そうではなくて、老化は多頭の怪物なのだ。ページ203