お酒の経済学

「お酒の経済学」を読みました。仕事上の読書です。今年7月の出版ですので内容は最新です。お酒業界を俯瞰しています。消費動向を時系列でまとめてあり、「規制」の得失もわかりやすくコンパクトにまとめてます。日本における酒類消費の歴史と今後の動向について基本的な知識を得ました。備忘します。

第一に、高度成長末期には、中間層に酒類消費の格差はほとんどなかった。第二に、近年では、最下層から中間層までは似たような消費パターンであるのに対して、最上層はワイン、ウイスキー、日本酒を主に楽しんでおり、豊かな人と貧しい人との間の格差拡大があらわになってきた。ページ12
日本人がお酒をあまり飲まなくなってきた理由は主に経済的な理由か、社会的、文化的な理由か、その解明は今後の課題である。ページ15
種類の課税移出数量は1999年度をピークに減少した。しかし、同時に図から確認できるのは、高度成長期に見られたビール、日本酒一辺倒からビール、リキュール、日本酒、焼酎、ウイスキー等への多様化である。ページ16
このため、日本酒に新規参入を目指すものは、廃業を考えている蔵元を買収するか、既存蔵元へ製造委託するしか方法がない。これは、人為的な参入障壁の設定であり、純然たる新規参入を不可能にしており、産業振興にとって好ましくない。ページ22
日本酒は、米と米麹を用いて米のデンプンを糖化させながら、同時並行的に酵母による発行を行う。先に述べたように、平行複発酵が日本酒の発酵原理である。このような発酵方法の醸造所は、世界で日本酒だけといわれる。したがって、日本酒のイノベーションの大きな方向性は、そうした発酵の複雑性を軽減する醸造法の開発であった。明治33
近年における、純米酒純米吟醸酒志向は、既存の醸造アルコールが添加された普通酒本醸造酒吟醸酒などからの決別を意味する。ページ44
位置の決め方には価値を重視するコスト・ポジション、または付加価値を重視する便益ポジションがあるが、朝日酒造が灘や伏見の大手メーカーに対して採用したのは便益ポジションである。そこで、価格プレミアムを払っても良いという消費者の存在を前提にして、市場のニッチに焦点を絞り、イメージや評判により製品を差別化している。この模倣は簡単ではないため、朝日酒造は、容易には競争優位を失わない構図を作り出している。ページ48
既存蔵元の内部からイノベーションが生まれざるを得ないと言ういびつな構造があることも留意すべきである。誤解を恐れずに言えば、「子が優秀だから」成り立っているのが近年の日本酒イノベーションの世界である。ページ51
このための焼酎の技術革新が①減圧蒸留法、②イオン交換法、③米麹を使わない麦100%の焼酎の製品開発である。これらは大分の二階堂酒造三和酒類によって主導された。ページ120
計画で企業の競争優位の源泉を分析する際の2つの重要な考え方は、「戦略的ポジショニング」と「組織能力」である。この観点から捉えると、日本の焼酎メーカーは、高い組織能力はあるものの、戦略的ポジショニングには失敗していると表現できる。ページ130
日本酒の場合には、数量ベースでは5.6%で、税収ベースでは4.4%である。こうした違いを経済学的に説明することが困難であり、政治的アクターの対立と妥協の産物と理解すべきであろう。ページ173
需要が少ない状態で供給が増大すれば、値崩れが起きて、中小零細酒造メーカーをさらに苦境に追い込むというのが規制当局の見解である。しかし、ビールとウイスキーの場合、新規参入組の政策は「良いものをより安く」ではなく「ユニークなものより高く」である。つまり既存業者とは製品コンセプトも価格帯も異なるため、過当競争にはならないと筆者は考える。ページ179
これから言えそうな事は、酒類消費の多様化のいっそうの進展である。ページ184
短期的には、最近伸びているRTDがさらに増えそうだ。だが、先に見た消費の拡大と減少の長期サイクルがあるとすると、RTDもやがて減るかもしれない。ページ185
2つ目は、グローバル化の促進である。この促進は「守り」から「攻め」に転ずるべきである。その好例が日本酒の輸出パターンの変化である。…国内消費が伸びないから海外に販路を求めるという「守り」の発想は転換すべきである。ページ186