人工知能の哲学

人工知能の哲学」を読みました。途中で何度も内容を要約してくれるのでとても分かりやすいと感じました。素人に解るように書くのは相当の力量です。著者はとても親切です。人工知能を考えるということはヒトを考えることだと納得しました。人工知能がヒトの仕事を奪うこともないし、自動運転は実現しないと示唆しています。現在人工知能といわれているものは「道具」に過ぎません。人間の本質は「目的を決めること」で、身体を持たない人工知能ではヒトの代わりはできません。ヒトは錯覚するからこそ認識できるし、場当たりだからコミュニケーション(振動論)できることを理解しました。良書です。備忘します。

人工知能の哲学

人工知能の哲学

機械と人間の違いは、自分で目的を決めることができるかどうかに尽きる。現在、機械を利用することによって、多くの作業ができるようになった。しかしながら、何をすべきか、どこへ行くべきかといった目的は、人間にしか決めることができない。ページ32
私たちの脳は騙されている。しかし、騙される(錯覚する)という事は、主観的に世界を作り出すからこそ、私たちは、世界がどんな状況であっても、安定した認識を行うことができると考えられる。ページ68
言語コミュニケーションの中枢が身体の運動をつかさどる運動野にあると言う事は、コミニケーションと体は表裏一体であると言う裏付けとも解釈でき、非常に興味深い。ページ85
…生物それぞれから見た世界である「環世界」は、「主体」を持つ私たち生物の身体感覚を始めとする感覚器官を通して、私たち生物の脳内で作り出す世界であり、私たちが世界を認識するという事は、脳内で「イリュージョン」を起こしていると解釈できるのである。そして、「イリュージョン」なしに、世界の認識というものは、起こり得ないのである。ページ114
…自己自身の歴史という「場」を、自己自身で持つことが自己を自己たらしめるものであり、「主体」という考え方に通じるものではないかと考えられる。ページ124
こうした個々のリズムを通して全体が1つの生命を奏でる現象は、私たち生物が、進化の過程を経て発達させてきた社会性と大きな関係がある。私たち生物がコミニケーションを行う事は、自らの身体感覚を通して、他者の行為の意味に対して共鳴し、それによって他者世界を作り出していくことである。リズムを共有するという事は、こうしたコミニケーションを成り立たせる根本原理なのではないかと思う考えられる。ページ140
生命の至るところで観察される振動現象は、人間や細胞を含む生命における社会性や秩序といったものを成り立たせる根本原理であると考えられる。ページ163
人間のような知能、すなわち「強い人工知能」は、未だ実現されていない。しかしながら、「弱い人工知能」というものはすでに多くのものが実現されているということになる。ページ178
重要なのは、現在私たちが用いている人工知能と言うものは、あくまで、人間の知能の代わりの一部を行う機械である「弱い人工知能」であり、人間にとっての道具に過ぎないということである。この考え方を軸として持っておくと、世の中の様々な論理を、冷静に見つめ直すことができる。ページ190
私たちが世界を認識できるのは、私たちが身体を持つからである。機械にとっての意味は、こうした身体を中心に置いた考察が不可欠であろう。そして、身体を中心に置いた知能の考察が、本書で行ってきた議論である。私たちにとっての意味とは行為の意味であり行為を行うには身体が不可欠である。身体にとっての意味は、身体と環境との関係によって、即興的にその場その場で作り出される。ページ208