日本の農山村どう再生するか

「日本の農山村どう再生するか」を読みました。2年ほど、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の普及に取り組んでいます。その際に、日本農業の、過去、現状、未来を理解する必要に迫られて読むことにしました。経済合理性からは逸脱しても、食料の確保、国土の保全、自然環境保全のために農山村を維持する必要を理解しました。書中、バブル期のリゾート開発を総括して「農村が自己否定を迫られるのは、わが国の農業観、農村観の底の浅さに原因がある」と激しい言葉で注意喚起しています。耳が痛い話です。備忘します。

いかなる農山村も、自己完結ではありえない。農山村は「自立」はできなくても「自律」はできる。「自律」、つまり外部からの制御から脱して自分の立てた規範に従って行動することが大切だ。(はしがき)
農業による環境への脅威には供給サイドの変化だけではなく需要サイドの変化も加わって、農業生産、流通及び消費の全過程を通じる構造的な要因がある。ページ39
広域行政は、戦後一貫して政府政策の路線であったばかりでなく、今日特にその制度的な整備が図られてきている。したがって広域行政の中で農山村対策をどのように位置づけるかは、検討すべき重要な課題である。ページ50
農山村が従来持っていた役割が次々と否定され、他の選択肢を絶たれた農山村は、一斉にリゾート開発につき動かされていた。農山村は、もはやリゾート開発対象地としての位置づけしか与えられなかったかのようである。このように、農村の位置づけがいとも簡単に変えられてしまい、農村が農村としての自己否定を迫られるのは、わが国の農業観、農村観の底の浅さに原因があると考えられる。ページ66
過疎対策事業費は、二期にわたる20年間に約25兆円に上った。これにより過疎地域の社会資本整備が進んだ事は、国土庁発行の「過疎白書」に示されている通りである。しかし、これを持って過疎問題が解決したとか、解決の展望をつくりだしたとは言いがたい。ページ88
中山間地域の有用な社会的機能として、①安全で新鮮な食料の国内需給上の機能、②国土の保全、管理上の機能、③健全な国民生活に欠かせない自然環境保全上の機能、等の重要な役割を持っている。ページ99
山間地域の維持発展を図る政策としては、①農山村の自前の発展努力、②農山村と都市との連携、③国家財政による中山間地域維持政策、の3つの政策を組み合わせる必要がある。ページ154
地域の産業を振興する方法として、次の三つがある。…①今ある産業・企業を育て、大きくする…②地元にない産業分野を、地元の力で作り出す…③域外から企業を誘致する…ページ163
内発的発展の重要なポイントは、住民の参加による地域の自己決定権である。人間性の発達が、欧米の近代化モデルを克服する目標の1つであれば、当然、村民が地域を知り、そこに参加して、自然と人間、人間と人間の関係を高めていくことが、地域振興の手段だけでははなく目標に位置づけられることになる。ページ169
こうした内外情勢によって農産物の国内価格の大幅な引き下げが不可避となるような場合、日本農業の存続のためには、価格支持に代替する農業支持方式として、財政負担等の何らかの直接支払制度を採択さざるを得ない事態は将来十分に予想するのではなかろうか。ページ285
日本の農山村、とりわけ中山間地域は、忍び寄る崩壊の崖っぷちに立たされた感もある。人口動態の自然減少と高齢化の進行、集落崩壊がその兆候である。ページ305
農山村の発展進行を進める政策の原理原則として、それまでの内発的発展に関する所学説を整理し、内容の補足を行ってまとめたものである。①環境生態系の保全及び社会の維持可能な発展を政策の枠組みとしつつ、人権の擁護、人間の発達、生活の質向上を図る総合的な地域発展を目標とする。②地域にある資源、技術、産業、人材、文化、ネットワークなどのハードとソフトの資源をおいては、複合経済と多種の職業構成を重視し、地域産業連関を拡充する発電方式をとる。…③地域の自律的な意思に基づく政策形成を行う。住民参加は、分権と住民自治の決定により地方自治の確立を重視する。同時に、地域の実態に合った事業実施主体の形成を図る。ページ318
食料安全保障の確立のためには、農林漁業を維持。・振興させる国庫補助金による支援などの国家の介入も必要といえる。農業の市場競争化と小さな政府論の原理的適用は、農林漁業では避けなければならない。ページ324