老人の美学

筒井康隆「老人の美学」を読みました。85歳の著作です。人は皆老いる、老いを恥ずかしがることはないのに、若者たちに嫉妬することもないのに、つい、イライラしてしまいます。老いても役割を見つけて淡々と処世するのは案外難しいです。読みながら筒井氏にあこがれている自分に気づきました。やることが山積みの毎日は幸福だと気づきました。
「子供叱るな 来た道じゃ/年寄り笑うな 行く道じゃ/来た道 行く道 ひとり旅/これから通る きょうの道/通り直しの できぬ道」永六輔氏が「大往生」で紹介していました。

退職してから再就職した先の、小さな同社の企業にいる人が仕事を頼みにやってくることもある。…昔は一緒によく仕事をしたからというだけであまりこういう行為はしないほうがいいだろう。さすがに仕事をくれと言ってくる人はあまりいないだろうが、どちらにしろ、明らかに老人の美学には反する行為である。ページ58
昔の知人に会いたいと言う気持ちは昔の自分に戻りたいと言う願望でもあろうか…ページ61
…仕事をしなくて済む境遇になった人の仕事は、孤独に耐えることである、といってもいいだろう。ページ73
わがまま、頑固、怒りっぽさというのは、老人なら誰にでも起こりえる負の感情だ。これを無理に押し殺さないほうがいい。インテリであればあるほど、こういう感情を非人間的なほどの強い自制心で押し殺そうとするが、これは爆発する。…「なんちゃってとか」ちょっと人を驚かせてから安心させるわけだが、これが身に付くと魅力的なちょいワル老人としてみんなから好かれるだろう。ベージュ86
妻の愚痴に付き合いなさい。とことん聞いてやりなさい。その時に、こうしたらいいとか、自分ならどうするとかいった、自分の意見を絶対に言わないように。つまりそんなものを求めているのではなく、聞き手を求めているのだ。黙って我慢して最後まで聞くことだ。ページ107
外出する時、できるだけ見きれいにする。ただでさえ老人は汚く見られがちだというので、清潔な服装を心がけ…ページ128
一般に誰にでも納得してもらえるのは、長生きすれば老衰で死ぬことになり、その方がまるで眠るように死んでいくということができ、若くして病気などで死ぬよりもずっと苦痛が少ないから、という誰もが望む死に方になるからだろう。ページ136
重度の認知症にもならず、まだ頭がはっきりしている時は、立ち居振る舞いや姿勢に気をつけておくべきだ。老人になると、意識せずして前かがみになっていたり、とぼとぼ歩きをしたりしているものだが、舞台に立っていたときの延長で、立ち居振る舞いを美しく、声を正しくと心がけていて、これは今でも続けているし、ときには人から感心して指摘されたりもする。ページ138
人生の最晩年を不機嫌に過ごすか、楽しく陽気に迎えるかもあなた次第なのである。ページ154