雨月物語

上田秋成雨月物語」を読みました。江戸後期に書かれた怪奇的な九つの短編物語集です。註や解説を頼りに、原文で読みました。よくわからないところは、YouTubeで1953年制作の映画で補いました。映画はこれら短編を横断的にまとめたストーリーでしたので、今なら、オムニバス映画にしたほうがよいと思いました。
内容は怪奇小説ですが、それほどのホラーではありません。死霊や生霊が出てきますが、説教じみてもいません。著者はなかなかの教養人で、万葉集から源氏物語などを踏まえています。教養のない私では見過ごしてしまうことが多々ありました。
「蛇性の婬」「青頭巾」が出色でした。主人公の成長物語とも読めるという解説がありましたが、さにあらず。「蛇性の婬」、蛇女の執念深さに圧倒されました。「青頭巾」、人肉喰らいの異様さに驚きました。一流のエンターテインメント作品になっています。
「貧福論」は「お金」にまつわる話です。神仏、儒学はお金を穢れたものとするがお金に罪はないという話です。「資本論」同様、我が国の資本主義の萌芽を感じました。備忘します。

家は外よりも荒れまさけり。なお奥のほうに進みゆく。前栽広く造りなしたり。池は水あせて水草も皆枯、野ら薮生かたぶきたる中に、大きな松の吹倒れたるぞ物すざまじ。客殿の格子戸を開けば、腥き風のさと吹きおくりたるに恐れまどひて、人々後に退く。豊雄ただ声を飲みて歎きゐる。武士の中に巨勢の熊樫なる者肝太き男にて、「人々我後につきてまいれ」とて、板敷をあららかに踏み手進み行く。塵は一寸ばかりつもりたり。鼠の糞ひりちらしたる中に、古き帳を立て、花の如くなる女ひとりぞ座る。熊樫、女にむかいいて、「国の守の召しつるぞ。急ぎまゐれ」といへど、答へもせであるを、近く進みて捕ふとせしに、忽地も裂るばかりのはたがたがみ鳴響くに、あまたの人に逃る間もなくてそこに倒る。さて見るに、女はいづち行けん見えずなりにけり。ページ182
…不徳の人のたからを積むは、これとあらそふことわり、君子は論ずることなかれ。ときを得たらん人の倹約を守りついえを省きてよく務めんには、おのづから家富、人服すべし。我(金の精)は仏家の前業もしらず、儒門の天命にもかかわらず、異なる境にあそぶなり…ページ256