死ねない老人

「死ねない老人」を読みました。現代老人の現状を知りました。「死ねない老人」とは、①将来の希望や生きがいを失ってしまった人、 ②不本意に生かされてしまっている人のことで、増加傾向にあるそうです。遊びだけでは希望や生きがいは生まれません。遊び興じることばかりを老後の楽しみと断定することは、むしろ高齢者を見下していることになっていると指摘しています。また尊厳死は医療法などの関係で思うようにはなりませんし、胃瘻手術や病院での死も本人の意志を無視して行われています。在宅死は、残る人々にたくさんのことを教えてくれるそうです、案外いいものだそうです。人の命は必ず終わりがあることや自然死はずっと安らかなものであることを子孫に伝えることができるとのことです。「食べないから死ぬのではなく、死ぬから食べなくなる」こと、「癌は死の直前まで意識があるので、老人にとって悪い病ではない」ことなど、たくさん教えて貰いました。今一度、「死」に対峙するときが来たような気がします。備忘します。

年齢で言うと、80歳を超える頃からこうした発言(死にたい)が出始め85歳を超えるとますます死を願う言葉が多くなる、という印象です。ページ18
あまり知られてないことですが、日本は高齢者の自殺が多い国です…そのうち60歳以上の高齢者は7860人と全体の約3割を占めています。ページ34
本書で注目しようとしている「死ねない老人」は大きく次の2つのパターンに分けられます。①高齢者本人の将来の希望や生きがいを失ってしまい、死にたいと願ってしまう「死ねない老人」。… ②周囲の圧力によって不本意に生かされてしまう「死ねない老人」、希望の場所で「死ねない老人」。ページ48
遊び興じることばかりを老後の楽しみとして提供する高齢者サービスは、むしろ高齢者を見下していることにならないか、と私は思うのです。ページ58
…高齢期に入った親世代から子供世代に至るまで、今の日本人が「老い」や老いの終着点である「死」というものを無意識に避けようとする傾向があることです。ページ64
…自宅でなくなる人が減るのに反比例して、病院で死亡する人が増え、1976年は、ついに病院死が自宅死を上回ります。そして時代が下るにつれて病院死はさらに増え続け、2020年には約938,200人、死亡全体の68%に上っています。ページ66
…これが、現代のごくごく一般的な病院死の姿です。家族はただ不安と緊張の中で医師や看護婦の指示を待つだけで、旅立つ人に別れや感謝を伝えることもできません。最後の瞬間も石を含め全員がモニターを見つめていて、患者さん本人が置き去りになっている例もままあります。ページ68
リヴィングウィル尊厳死の問題はまた後の上でも詳しく説明しますが、この問題の根幹にあるのは、高齢者とその家族、その医療者間で日本社会全体が生物として避けられないはずの「死」を認められなくなっていることです。ページ77
…在宅死を経験していくうちに、私は在宅死っていいなと思うようになりました。患者さんの息が止まるとご家族が私を呼ぶのですが、家に着いたときにはすでに家族が集まって「大往生だったね」と談笑しながら、お茶を飲んだりしてることがあるのです。ページ93
どれだけ医療が発展しても、生物としての死を免れることはできません。人の致死率は100%です。医師にとって死が敗北なら確実に全敗なのです。全敗というのは、90歳まで現役の医師として臨床の現場で出ていた私の父の言葉です。父は生前、医療の究極の目的は「いかに患者さんが満足して死んでいけるか」だと語っていたことがあります。ページ97
終末期の高齢者が食べなくなるのは死に向かう時、自然な体の変化です。死が近づくと体が食べ物を受け付けなくなるのです。ページ102
がんの場合、終末期の経過がある程度決まっている上、本人の意識は亡くなる少し前まであるようなことが多いです。だから旅立つ本人は周囲に別れを伝えられますし、最後の時に向けて家族も心の準備を整えることができるのです。ですから今の時代歳をとって癌になるという事は、決して悪いことばかりではないと思います。ページ110
自分自身がどういう時に生きがいや喜びを感じるかをよく考えてみると、次の2つが高齢期の生きがいにつながるキーワードになるのではないかと思います。まず1つ目は「人の役に立つこと」です。…そして2つ目「は好奇心を持って学ぶこと」です。ページ116
林先生は自身の著書で、脳神経細胞が持つ本能は「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」という3つであるとしています。そしてこのうち、「仲間になりたい」という本能は脳に「人が喜ぶことが自分にとっても嬉しい」と感じさせます。つまり脳は人のためになる時、貢献心が満たされるときに、それを自分にとっての「報酬」であると捉えて機能するようにできていると述べています。ページ117
やはり鍵になるのはいろいろなことに興味を持つ「好奇心」です。ページ124
そして精神面のことでいえば、衰えや不調があってもあまり気にしすぎないことが大切です。… 精神科医和田秀樹先生は、高齢になると思考の柔軟性が失われ、白か黒かという極端な考えに陥りがちだと指摘します。そのため病気をすると自分はもうおしまいだと、必要以上に悲観的になってしまうことがあります。ページ132
私よりも年上の90代の友人と会った時、友人が元気の秘訣を教えてくれたので…「人と付き合うこと。おしゃれをすること。趣味を持つこと。植物を観察すること。30分昼寝すること。魚・野菜・果物を取ること。そして、「健やかに生き。安らかに逝く」これがモットーです。ページ133
看取りの時が近づいてきた患者さんの様子がわかりやすく説明されていますので1部を紹介します。水分や食べ物をほしがらなくなります…眠ることが多くなります…すべてを受け入れてあげてください…限られた時間と向き合う…
ページ170
家で家族に認められて旅立つ人は、残る人々にたくさんのことを教えてくれます。人の命は必ず終わりがあること、過剰な医療にすがらなくても自然死はずっと安らかなものであること、死と言う区切りがあるからこそ、命の大切さや、支えあって生きてきた家族の大切さがより明確に感じられること。在宅看取りで家族の死に向き合う体験は、次の世代にとって死を学ぶために、これ以上はない貴重な機会でもあるのです。ページ171