米欧回覧実記1

「米欧回覧実記1(アメリカ編)」を読みました。明治4年岩倉具視を筆頭に、明治の元勲、木戸孝允大久保利通伊藤博文を含め、総勢48名で、あしかけ3年間、米国、欧州視察した旅行記です。漢文体の文を水澤周氏のこなれた素晴らしい現代語訳で読みました。
長い鎖国が終わり明治維新の混乱収まらない頃に、明治政府の要人が大挙して長期海外視察に出掛けるというのは驚き以外のなにものでもありません。先進国に学ばなければ日本が発展できないという渇望や焦燥だったのかもしれません。産業や地勢、民度だけではなく、民主主義の本質、男女差別の得失、宗教、ブランドまで深く考察しています。彼らの江戸時代に学んだ教養や知識のベースが尋常でないこともわかりました。現代の教養ある日本人を超えていると思います。150年前の先人達の努力の上に今の日本があることを痛感しました。名著です。備忘します。

国富を増やそうとする場合、各地で生産されている様々な産物をまず集めることによって価値が生まれる。その集めたものをいかに効率的に配送するかが、付加価値の要点である。効率よく集め、効率よく配るには水運利用が基本の第一である。ページ45
貿易において名声<顧客の信用>は、巨万の資本以上に大切なのである。優れたビジネスはこの名声を年々高めることに努める。眼前の小さな利益にはこだわらないのは、信用が自分の価値を高めるからである。拙劣なビジネスにおいては小さな利益を掴み取ろうとし、名声の方を捨ててしまう。数年間ではこの2つの方法に優劣は生じないようだが、長年の間にはその優劣の差は歴然としてしまう。ページ90
…このような土地を過ぎてきたので、世界の大きな富は資源や資本の高に関わるのではなく、それを利用する能力に関わるのだということをますます信ずることとなった。ページ167
…この状況を見ても、人口増加な国家の利益にとって極めて重要なポイントであることがはっきり証明できる。ページ167
…ときには一望のもとに見渡すような広い田野を走る。米国の広い事は、日々、目を見張るばかりの思いである。ページ178
道路がよく整備されているのは商業国の美風である。この市のペンシルバニア・アベニュー等は、特に美しく、50メートル幅の広い道の中央は車道、左右は歩道となっており、歩道の幅は約7メートルの石畳で歩きやすい。ページ207
西洋の人々は荷物を担ぐ習慣がなく、馬にも荷を載せない。それでいて重いものを運ぶ能力は我々日本人の数十倍である。一頭の馬で30トンの重さを運ぶことができる。このように言うと怪しんでにわかには信じないかもしれない。しかしこれは大変簡単な理屈で、何も驚くほどのことではない。車輪の作り方が精巧で道路がよく整備されているからなのである。大体1トンの重さは、人が背負えば20人分の仕事であり、馬に背負わせれば7頭分の仕事となる。ところがよくできた車両で運べば馬一頭で足りる。ページ209
…その国の道路の整備状況を見ると、政治の安定度や人々の貧富の状態が非常によく見えているような気がする。ページ211
アメリカ国民はこうした政治条件の中に育ちながら100年を経たので、小さな子供でも君主をいただくことを恥じる。習慣は日常の感覚となって、彼らは民主主義にも欠点があることを知らず、ひたすらその美点を愛し、世界中にその理想的制度を普及させたいと考えている。ページ224
欧米の人々が文明開化を論じるとき、まず愛国心から論じだす。自分自身を大切にせず、生まれた家を捨て、故郷を顧みず、自分の国を嫌う者は、わが国の伝統的な教えからも背いているのだが、西洋の文明からも評価されないところである。欧米の教育においてはまずその国の歴史を教える。それが愛国心を育てるものだからである。ページ327
…会が終わった後、ホールの前の海岸にある気球に乗り、1000メートルほども上昇してから地上に降りた。ページ328
…通論すると、共和国と言うのは、自由の弊害が多いものだ。地位のある人々が自由を満喫し、一視同仁の状態にあるのはうらやましいことであるが、貧しい庶民たちの考えている自由は、放縦というものであって、人に規制されたくないということである。上下の秩序に欠けるところがあるので、風俗はおのずから悪化する。それに加えて世界各地からの移民が雑居しているのでその傾向が強まる。だからニューヨークからロンドン、そしてロンドンからパリに行くと、人心はだんだん良くなる。パリは、世界の遊園地といっても良いところである。ページ369
…思うに、この愚かなところがつまりは熱心に教えを守ることの本質であり、我々が1番及ばないところであるかもしれない。なぜならば、宗教において貴ぶべきは実行にあるのであって、弁論ではないからである。ページ387
…今は東洋人の方が西洋人にとてもかなわないというようになった。今から200年後、この「とてもかなわない」という言葉を、どこの国が発するであろうか。ページ407
…米国人は、外国人をまるで家族のように扱い、その厚誼の熱い事はまるで兄弟に対するかのようである。ことにボストンに来てからの5日間は、市内や近郊の街の人々が我々に最大の親睦厚誼を示してくれた。…この開明の時代にあって、鎖国の長い夢から覚め、国際的な友誼の気風に浴するする事は、我が日本においては極めて大切なことだということを、各人は心に焼き付けなくてはならない。ページ416
…土地は広く地味は豊かであり、資源も豊富であるから、産業を起こしたい人間にとっては寛容な土地であり、粗大なやり方によって世界に覇を唱えてきた。これこそ、アメリカがまさにアメリカであるゆえんであると言えよう。ページ417