一休恋慕

 1998年5月「一休恋慕」を、アートスフィア(天王洲)で実際に観ました。当時、無理を言い、小椋桂の弟さんの神田富雄氏にお願いしてNHKの放送用ビデオテープをいただきました。岩崎晴龍さんが一休役、刀根真理子が森女(しんにょ)役でした。その映像を久しぶりに観て、再び感激しました。言葉の美しさに快感を覚えました。

 下記引用は一休宗純の老いらくの恋のはじまりのシーンです。一休は盲目の森女を見て恋に落ちます。言葉と歌が渾然と混じり、こぶしの効いたミュージカルになっています。


一休 何と美しきその姿 金春禅竹の舞台も及ばぬ

   それにまた 何と心に滲みる歌声

森女 野分き峠を越えくれば 鹿の遠音か 風の音か

   しずの苫屋の戸をたたき 今宵は宿を借りるらむ

一休 見るからに辛きこしかた 窺われるにもかかわらず

   美しき艶やかな歌 感じ入る 坊主なりとも

   我は一休、はぐれの坊主 坂の飯に仮といえども住まいあり

   参いられまいか しばしでも 身を暖めに

森女 わたしの名は森女 伺えばば名高きお方

   話すすさえ恐れ多くて みじろぎ覚えるばかり

一休 遠慮など一切無用 何ごとも修行の支え

   身の上を語られまいか 熱きものすすりなどして

森女 この通り生まれながらのめしいにて 美しきもの 花の色未だ見知らぬ

   映るもの闇の夜のばかり かろうじて生き延ぶための 門付けを生業うちも 

   恥ずかしきことも重なり 身の穢れ拭いもあえず

一休 乱世にはやむを得ぬこと 惑いの麗しきかな

   旅に病む 心を癒しに とにかくに参いられまいか