妻を帽子と間違えた男

「妻を帽子と間違えた男」を読みました。精神科医のノンフィクションです。映画「レナードの朝」の原作者です。全編、精神に不調を来した人々の24編です。読み進めるうちに普段どおり生活していることが、ありがたく思えてきました。視覚認識能力を喪失すると、視力はあっても妻の顔が帽子に見えてしまうそうです。短期記憶以外の記憶ができなくなってしまった症例にも驚きました。「博士が愛した数式」の着想は、もしかしたらこの本からかもしれません。また喪失した手足があるように感じるファントムの現象にも驚きました。自閉症の患者は天才に近いことを知りました。一読をお薦めします。備忘します。★★★

妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

六番目の感覚とは、からだの可動部分から伝えられる、連続的ではあるが意識されない流れのことである。からだの位置、緊張、動きが、この六番目の感覚によってたえず感知され修正されるのである。…われわれは気づかないでいる。p.96
これこそ大統領演説のパラドックスであった。われわれ健康な者は、心のどこかにだまされたい気持ちがあるために、みごとにだまされてしまったのである。巧妙な言葉づかいにも調子にもだまされなかったのは、脳に障害を持った人たちだけだったのである。p.165
われわれは、めいめい今日までの歴史、語るべき過去というものをもっていて、連続するそれらがその人の人生だということになる。われわれは「物語」をつくっては、それを生きているのだ。p.209
知的障害の人々に特徴的な心の質とは何か?…一言で言えば、それは、「具体性」ということである。彼らの世界は生き生きとして、情感鋭く、詳細にわたり、それでいて単純である。p.313
自閉症の者は、生来めったに外部からの影響を受けない。そのために孤立化する運命にある。しかし、だからこそ彼らには独自性がある。p412