われ万死に値す

「われ万死に値す」(岩性達哉著 新潮文庫刊)を読みました。二度目の読了です。何故かもう一度読みたくなりました。第74代内閣総理大臣竹下登氏の評伝です。DAIGO(だいご)の祖父です。

気配り政治家、竹下の複雑な過去と皇民党事件の真相に迫っています。表題の「われ万死に値す」は彼の国会答弁からとられています。金庫番、青木伊平の自殺の後、リクルート事件について野党からの執拗な質問に根負けしたのか「私という人間の持つ一つの体質が…悲劇を生んでおる。これは私自身顧みて、罪万死に値するというふうに私思うわけであります」(平成4年11月26日の衆議院予算委員会)普通、政治家はこの種の発言はしません。

彼は島根の造り酒屋、地主の長男に産まれました。戦時中、学生結婚をして、5ヶ月後に出征、彼の実家に戻っていた妻が自殺。それをきっかけに人間が変わりました。舅との確執を苦にした自死ではないかと推察できます。友人の証言「…空襲警報が出れば、我々もたこつぼ防空壕に待避する。ところが竹下は、誰が命令したわけでもないのに、防空壕には入らず、空襲が終わるまで敵襲の飛来を監視していたのです。見晴らしのいい地上に立って…竹下はその危険な行動をやめようとはしなかったですね」著者はこの行動を、妻の死に対する後悔の念がこの無謀な行動に駆り立てたのかもしれないとしている。

皇民党事件の黒幕は佐川急便の佐川清であり、同郷の恩人の田中角栄を裏切った竹下登への復讐劇であったと断じています。東京佐川の渡邉某との権力争いも絡み、右翼、暴力団をつかって竹下登を追い込んだとのことです。備忘します。


実際、裏切り者と名指しされた亀井は、当初は小渕支持を公言していたが、梶山が立候補すると、梶山支持を表明し。最後は小泉支持を打ち出している。政治信念など持ち合わしていないかのように、支持する相手を次から次へと変えているだけに…森と亀井が、小泉つぶしを画策したかどうかは検証のしようがない。ただ、小泉が予想外の結果に終わったことで、森の地位が派内で急浮上したことは衆目の一致するところだろう。(p.51)

講話の条約 吉田で暮れて/日ソ協定 鳩山さんで/今じゃ佐藤で 沖縄で/十年たったら竹下さん/トコズンドコ ズンドコ(p.113)

暴力団に頼って総裁の地位を手に入れたという竹下の不明は、単に本人が晩節を汚したという問題だけではない、日本の議会史上類を見ない汚点であり、最大の不名誉である。(p.260)

…田中は、創政会の発起人に梶山静六小沢一郎羽田孜の三人が揃って名を連ねていたことに怒り以上の悲しみを覚えたという。(p.266)


参考 皇民党事件

当時、総理大臣だった中曽根康弘から受ける次期総裁の指名をめぐって安倍晋太郎宮澤喜一と争っていた竹下登が、暴力団とつながりが深いとされる右翼団体である日本皇民党から執拗に「日本一金儲けのうまい竹下さんを総理にしましょう」と「ほめ殺し」を受ける。「ほめ殺し」とは、右翼団体が行う街宣活動の一形態で、攻撃対象を徹底的に誉め称える嫌がらせの街宣活動を行い圧力を加える。尚、この事件を取材したジャーナリストの岩瀬達哉によると、ほめ殺しなる言葉を定着させたのは、浜田幸一だとされる。(wiki

われ万死に値す―ドキュメント竹下登 (新潮文庫)

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