芸人の肖像

「芸人の肖像」を読みました。昨年末に亡くなった小沢昭一さんの著作です。彼が時折書いていたエッセイと当時の写真集です。読み終えて、私の昭和が記憶の奥底から甦りました。縁日、見世物小屋、まだ貧しいが、なぜか明るい70年代でした。特に、本書でで取り上げられている旧東海道、北品川の縁日は、まさに私の縁日です。小中学生の頃、東品川の自宅から小銭を握りしめて出かけたものです。傷痍軍人のアコーデオン、バナナの叩き売り、鮮明に思い出しました。獅子舞は覚えていますが、それ以前の門付けや万歳は知りません。こうして大衆芸能は変遷することを知りました。そして…昭和にノスタルジーを感じない世代がすぐ後ろに控えています。佳作です。備忘します。

芸人の肖像 (ちくま新書)

芸人の肖像 (ちくま新書)

北品川の縁日に出かけて見ました。このあたり、旧東海道の商店街は戦災にあわなかった一角で、そういう焼けない家並みは縁日に似合うのです。「縁日」とは神仏との有縁の日、結縁の日。ここ北品川では、虚空蔵尊の縁日(毎月七の日)でした。(p.41)
…尺八の名人、袋に詰めた何本もの尺八を携えて高座の座ると、おもむろに尺八を取り出して、さて吹くのかと思いきや、無言のままその尺八を布で磨く。…これが何とも可笑しくて客はクスクス。…ある日…空襲警報発令です。…いつものように尺八を取り出すと、この時ばかりは磨かずに、尺八を口に当てました。…ここはお国の何百里…例の「戦友」の曲を、静かに朗々と吹いたのです。もう、いつ爆弾が落ちてきてもいいぞというような気迫。あの時の感動は忘れられません。(p.120)