読まなくてもいい本の読書案内

古いパラダイムで書かれた書物を読んでも無駄だと説いています。現在、大きな知のパラダイム転換が進行しています。あらゆる事象を「複雑系」「進化論」「ゲーム理論」「脳科学」「功利主義」の最新の知見で考え直す必要があります。例えば「囚人のジレンマ」問題が誠にシンプルな「しっぺ返し戦略」で解けることを知りました。すなわち「とりあえずどんな相手でも最初は信頼する。それにこたえて相手が協力すれば、信頼関係を続ける。相手が裏切れば、自分も裏切る。だが一度裏切った相手が反省して協力を申し出れば、即座に相手を信頼して協力する」
これまでの哲学や宗教もすでに世界を説明できなくなりました。衝撃を受けています。備忘します。

「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する (単行本)

「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する (単行本)

マンデルブロが見つけた世界の根本法則とはなんだろう?それはラフネス(複雑さ)にも必要があるということだ。このラフネスを、彼はギザギザしたものという。ページ37
もちろんこれまで、自己相似や複雑さを研究した科学者や数学者はいた。だがマンデルプロだけがことそれをフラクタルとして統合し、世界の根本法則であることを示すことができた。これが巨大な知能パラダイム転換だ。ページ39
市場や社会はランダムネスではなくフラクタルが生み出すラフネスの世界だ。ページ41
ハブとスポークでできた航空路線図はものすごく複雑に見えるけれど、実際に移動してみると世界はとても小さい。…世界はネットワークであり、それを動かしているのはハブなのだ。ページ45
単純な規則から複雑なものが生じ、世界は複雑さに満ちているというのは既存の学問を根底から揺るがす知能ビックバンだが、だからこそその功績を誰に帰すかで熾烈な争いが起きた。ページ50
現代の進化論は、自然選択の原動力を、「できるだけ多く子供を残す事」から「できるだけ多く血縁を作ること」へと拡張した。これを包括適応度と言う。ページ76
…進化論における個体から遺伝子への視点の転換は、天動説から地動説へのコペルニクス的転換に匹敵する衝撃だった。少なくともドーキンスの登場によって、生物学の専門家ではない僕たちにも現代の進化論を理解できるようになったんだ。ページ77
このようにして、ゲームの理論に大きな知のブレイクスルーが生まれた。そこではコンピューターのような超人類(合理的経済人)ではなく、進化論的には合理的だが数学的にはしばしば不合理な行動とる、僕やあなたのようなごく普通の人間をモデルに市場や経済を考える。これが行動ゲーム理論だ。ページ157
こうした手法は「ランダム化対照実験」と呼ばれていて、現在では医学や社会学、経済学など様々な所で使われている。とりわけビジネスの現場では、専門家の役割を大きく変えてしまった。もはや社運をかけて当たるかどうか分からないテレビCMを打たなくても、どうすれば一番うまくいかは統計が教えてくれるのだ。ページ169
マンデルブロが言うように市場が複雑系のネットワークだとしたら、どれほど高度な数学を駆使しても市場を完全にモデル化することはできない。なが複雑系は単なる無秩序ではなく、そこではいくつもの安定した系がおり重ねられているはずだ。ページ171
…ひとつは心脳問題は原理的に解決不能だというもの。脳という物理的存在から意識が生じていることは間違いないが、対象がそれ自身を理解することは原理的に不可能なのだから、そこで何が起きているかを人が解明することはできない…もう一つは、脳は自己組織化する複雑系のネットワークで意識はその複雑さから創発してくるというもの。ページ200
ヘーゲルに代表されるように、それまでの西洋哲学は意識と存在をめぐって難解な施策を延々とくり広げてきた。それに対して人間の行動のほとんどは無意識を決めていて、性的欲望が決定的に重要だと指摘したことはフロイトの大きな功績だ。だがフロイトの評価が難しいのは、そこから先の理論がほとんど間違っているからだ、それもとんでもなく。…エディプスコンプレックスなんてなかったし、女の子は自分のペニスを持っていないことで悩んだりししない。どのような脳科学の実験からもリビドーは見つからないし、意識が…3層構造になっている証拠もない。夢は睡眠中に感覚が遮断された状態で見る幻覚で、抑圧された無意識の消失ではなく単なる意識現象だ。ページ215
しっぺ返し戦略では、とりあえずどんな相手でも最初は信頼する。それにこたえて相手が協力すれば、信頼関係を続ける。相手が裏切れば、自分も裏切る。だが一度裏切った相手が反省して協力を申し出れば、即座に相手を信頼して協力する。本当にこんなシンプルな方法で囚人のジレンマを解ける…ページ273
ここからわかるのは、もしその分配に市場が使えるのなら、面倒臭いことは考えずにすべてを市場に任せてしまうのが一番いいということだ。これは規制緩和の重要性についての、ゲーム理論に寄る強力な照明になっている。ページ277
最適な分配を考えるときには、パレート効率性、個人合理性、耐戦略性のどれか1つをあきらめなくてはならない。これは典型的なトレードオフで、市場取引は、コアではあっても戦略的操作に対しては脆弱性がある。しかしそれでも、自分の選好を偽ることで市場全体の配分を変えるのは通常は極めて難しいから市場の仕組みはやはりダントツによくできてるのだ。ページ278
近所のスーパーでは随分前からレジ袋が不要な人には会計の時に代金から2円引く-エコバックキャンペーンをやっていた。しかし見ているとエコバックを持参してくるのはごく少数で、大半の人は当然のようにレジ袋もらっている。わずか2円を節約するために特別なことをするようなことをは誰も思わないのだ。ところが先日、久しぶりにスーパーに行くと、レジに並んでいるほぼ全員がエコバックを持っていた。いったい何が起きたのだろう。その秘密は、レジの手前に袋を置いて、必要な人は自分で買い物かごに入れるシステムにあった。会計の時は、レジ袋1毎月2円が加算される。そうするとほとんどの人はしばらく逡巡した後、それならいいですと答えて品物をバッグに詰め込む。そう考えるとこの行動は経済合理性では説明できない。これまでレジ袋第2円を引いて来てもらう機会を無視していたのだから、2円を追加で払ったとしても同じことだ。ところが2円得することに全く興味のなかった人がに2円損すると気づいた途端、行動が変わってしまうのだ。ページ291
欧米における臓器移植のドナー登録者の割合がどこも日本よりはるかに高いが、ドイツ、イギリス、オランダ、アメリカなどが5~30パーセント、ベルギー、ポーランドポルトガル、フランス、ハンガリー、オーストラリアはほぼ100%の登録率になっている。この謎を解く鍵は「デフォルト」にある。…デフォルトが臓器提供しないであればドナーになるにはわざわざデーターセンターに登録しなければならない。これは単にめんどくさいだけでなく、心理的にかなりの抵抗がある。人は無意識のうちに想像したことは現実化すると思っている。これは普通夢が叶うと言われるのだが。それが悪夢でも同じことだ。臓器を提供するのは自分が死んだときだから、ドナー登録すること自体が不幸を招き寄せる、縁起が悪い、と感じられる。それに対して臓器提供することがデフォルトになっていると、ドナーから外れるためにはデータセンターに申請して名前をはずしてもらなければならない。これは、別の意味で心理的な負担になる。ページ293
今better futureやbetterワールドを大真面目に語ることができるのはシリコンバレーだけだ。それ以外の様々な理想は、歴史の難しいハードルを超えられずに消えていった。サイバーリバタリアンが思い描くテクノロジーのユートピアだけが僕たちの唯一の希望だ。たとえそれが、どれほど危うい未来だとしても。少なくともそれが勘違いかどうかはまだ結論は出ていない。ページ312
古いパラダイムでできている知識をどれほど学んでも、何の意味もない。ページ317
年功序列、終身雇用の日本的な労働慣行は、正規非正規という身分差別新卒一括採用や、定年という年齢差別、子供が生まれてサービス残業できなくなると昇進させない女性差別、本社採用と海外の現地採用で待遇が違う国籍差別によってできている。これほどまでに重層的な差別が社会の根幹を蝕んでいたら、個人がどんなに頑張っても自由な人生なんて実現できるはずがない。なぜこんなに差別がいまだに残っているかというと、それによって得をする人たちがたくさんいるからだ。それは日本人、中高年、男性、一流大学、正社員という五つの属性を持つ頭の固いおじさんやおじいさんのことで、政治や行政・司法から学校、会社、マスコミに至るまで、日本社会は彼らの既得権でがんじがらめになっている。ページ319