江分利満氏の優雅な生活

江分利満氏の優雅な生活」を読みました。戦中派作家と呼ばれた山口瞳の本作品は高校生の頃から気になっていました。これまで読む気にならなかったというのが本当のところです。先日、古本屋で本書を見つけて思わず購入しました。
庶民の何気ない日々のできごとを淡々と物語に紡いでいます。破天荒な父の事業欲、破綻、懲りない生活、まるで我が父、祖父を見ているようでした。母を苦しめた父を憎みながら愛する姿は我が家に通じるものがあり冷静には読めませんでした。妻が空襲で逃げ惑ったこと、大学を辞めて徴兵にいったこと、博打で食っていたことや、その後のサラリーマン生活、どれもこれも偶然の積み重ねで日々が続く…。人生とは案外こんなものかと得心しました。備忘します。

江分利満氏の優雅な生活 (ちくま文庫)

江分利満氏の優雅な生活 (ちくま文庫)

老年ということがある。そして老醜という言葉がある。「老醜」ということを江分利はむしろ有難いと思うことがある。…父が少し狂っていて、エゴイストで、急にみみっちくなり、吝嗇漢になったことを、いわば「老醜」のサンプルみたいな人間になったことを江分利は心のどこかで感謝しているような気配がある。…年老いて、心が汚くなり、心がおとろえ、みにくくなっていくのは、これも自然ではなかろうか…ページ140