データ農業が日本を救う

「データ農業が日本を救う」を読みました。出版されたばかりの本です。著者、窪田氏の本は3冊目です。センセーショナルな書き方が特徴です。「データを活用した農業」が日本農業の再生につながるという論です。流通改革、ロボット開発、農業政策、世界標準、いずれも異論ありません。誰がやるかです。人を動かすのは、恐怖か、金か、人徳(理念)です。だれが旗手になるのか? 本書に登場する農業総合研究所の及川社長かもしれません。お目に掛かった印象では、とても明るい感じでした。「明るい」のは何よりの資質です。もう一人登場していたのが、FARBOT™を開発した銀座農園、飯村社長です。ちょっと「暗い」かなと感じました。思慮深いのかもしれません。私の直感です。備忘します。

オランダの施設園芸の特徴はその収穫の終了の高さにある。例えば戦略品目の1つであるトマト。…日本と比べて約7倍多い事は先述した。これは品種や栽培法の改良に加えて、データに基づく緻密で合理的な農業が確立されてきたことが大きく寄与している。ページ22
農家は施肥をする際にはそうしたばらつきを無視し、1枚の圃場に均一に肥料まいている。結果として肥料の不足が発生しているのが現状である。それをなくすために最近になって広く用いられるようになったのが、地力のばらつきに合わせて、肥料をまく量を微調整する「可変施肥」なのだ。ページ27
葉のしおれや茎の太さの具合から、植物がどれだけ水分ストレスを感じているかを人工知能で判定し、冠水を制御することで、高い糖度のトマトを安定的に生産することに成功したのだ。ページ31
溶液の量を点滴で調整するのに使っているのは日射比例式の制御装置である。ハウスに設置したセンサーで日射量を計測し、集積している。事前に設定した積算量に達すると、自動的に給水する仕組みになっている。ページ33
…農業には大きく分けて3つのデータがあるという。1に環境、2に管理、3に生体に関するデータだ。行ってみればこの3つのこそがデータの元である。…それを判断する上で大切なのは、3つのデータをきちんと集めること。そして、蓄積したビックデータを解析して科学的な農業やっていく。これがデータ農業の基本になります。ページ54
フェノミクスについて理解するにア、まず「ジェノタイプ」と「フェノタイプ」という言葉を抑えなければならない。共に育種における植物の性能を評価する対象であり、日本語ではそれぞれ「遺伝子型」と「表現型」と呼ばれている…しかしフェノタイプの情報がないと、遺伝子がどう機能しているかがわからない。ジェノタイプの情報だけ持っていても宝の持ち腐れと言うわけである。ページ67
収量を推定できる事は何の役に立つのか。まず期待できるのは1株ごとの緻密な肥培管理だ。種まきや苗を植えた後、作物の生育に応じて肥料をまく行為に「追肥」がある。…それぞれの地力に応じて追肥する量を調整する「可変施肥」という技術が広がりつつある。…もう一つは加工工場の稼働計画を効率的な立案に役立つことだ。ページ77
…食を基軸として農林水産物の生産から製造と加工、流通、販売まで付加価値の連鎖を構築したビジネスシステムを「フードバリューチェーン」と呼ぶ。このフードバリューチェーンの構築こそ、今もって日本の農業に欠けている視点であり、それこそがこの産業が衰退してきた1つの要因である。ページ95
農業用ロボットが普及する上での現実的課題は少なくない。そもそも日本の農地は1枚あたりの面積が小さい上、現行法では人が操縦することなしにロボットがこ公道を走行できないので、区切られた田畑をこえられず、効率がさほど上がらない。さらに農地があるエリアは通信インフラの整備が行き届いていないことが多く、データの収集や活用ができないことがある。ページ124
フォークリフトのコンテナの位置を把握する技術ではGPSGNSSを使っていない。代わりに車体に取り付けた光センサー技術「ライダーLiDAR」がものをいう。ページ142
すでに人の代わりとなる様々なロボットが開発されている。ただ今回の実証試験で改めて気づいたのが、その期待に十全に応える事はいずれのロボットでも難しいということだ。ページ155
いずれのロボトラも水田用に開発されているというのは初耳であり、驚きだった。水田用であるために畑作では使い切れない。ページ159
ラクターと作業機がイソバス仕様になることで可能になる事の概要を聞いた。現時点においてイソバス仕様の農機を開発しているのはほとんどが海外メーカーで、国内の農機メーカーではおそらく久保田のトラクタだけだろう。ページ167
ここで押さえておきたいのは、ビックデータの時代には因果関係から相関関係に主軸が移るということだ。…膨大なデータと高度な計算処理能力があれば、最も相関の高い事柄を特定できてしまうのだ。AIを使うに越した事はない。ページ171
ただし現実を見れば、都道府県の農地の平均的な面積は1枚あたり20アール強に過ぎない。「スマート農業」を声高に叫ぶ前に国を挙げてやるべきことがある。それはもちろん農地の集積と拡大である。ページ175
政府は「スマート農業」の普及を声高に叫ぶ前に、まずは農地に関する地域農業の担い手の声に耳を傾けるべきである。小さな農家が点在しているという日本の農地の問題を解決しないことにはロボット農機の効果は限定的にすぎない。ページ185
メイドバイジャパニーズにおいて「データ」と「ガラパゴス品種」が武器になる事は理解してもらえたのではないだろうか。…「日本には優れた品種がいくらでもあるんだから、日本農業の知財をパッケージにして輸出する機会は多分残されています」ページ202