渋滞学

「渋滞学」を読みました。高速道路走行中のいろいろな疑問に答えてくれる本です。大渋滞が最後の頃になると急にスムーズに動き出したり、車線の選択により到着時刻が違ったり、料金所の影響で渋滞したり、何か法則があるのではないかと以前から思っていました。水や空気は流体学で説明がつくそうですが、自立的な性質をもつ自動車などは、渋滞学でしかわからないことを知りました。山火事や感染を拡大させないためには火の「渋滞」を起こせば良い、お金持ちになりたければお金の「渋滞」を起こせば良いなど、示唆に富んだ内容です。備忘します。

渋滞学 (新潮選書)

渋滞学 (新潮選書)

従来の渋滞の理論と言えば「待行列理論」がある。これは現在でも銀行やデパートなどサービスカウンターがある所では、客の待ち行列を減らすために重要な理論として実際に使われており、客の来る頻度に応じていくつのカウンターを開けばどのくらいの待ち人数になるのかをこの理論を用いて予測している。ページ31
緩やかな上り坂に車が差し掛かるとアクセルはそのままで走ろうとするので、少しずつスピードが落ちてくる。ある程度スピードが落ちてくると、ここは上り坂と気がついてアクセルペダルを少し組み込む。しかし時既に遅し。もしも後に車がついていれば、それらの車との車間距離はどんどん詰まってきてしまう。仮にもしその上り坂の手前が気づかないほどの下り坂であればなおさら後続車が迫ってくる。車間距離が縮まると、後続車がブレーキを踏んで減速してしようとし、それが後ろの車に波及してさらに強くブレーキを踏ませる。ページ43
このメタ安定状態の崩壊は、水の場合と同じでほんのちょっとのきっかけで起きる。そして皆がうまく減速したりして衝突を回避し、結果としてすぐに全体が安全な走行状態になる。この一旦安定になって新しい状態がまさに渋滞相の始まりであり、自由走行相から渋滞相への変化は、いちどこのメタ安定状態を経て遷移していくのだ。ページ54
この結果だけから言えば混んできた場合は(追い越し車線より)走行車線を走った方が良いということだ。実は長距離トラックの運転手はこのことを経験的に知っている。ページ65
①高速道路の渋滞原因のうち、錯誤が原因の自然渋滞は全体の3割以上占める。②高速道路では車間距離がおよそ40メートル以下になったときが渋滞の始まりである。ページ74
適切な避難のタイミングは火が天井に燃え移りそうな時だ、と記載してある。天井に燃え移るまでは比較的消化が容易であるため、この間に落ち着いて初期消火活動することが大切だ。ページ90一
以上により、一般に幅が狭い場合は、お互い譲りやったほうが結局皆が出終わる時間が早くなることがわかったので、私はどんなに気が焦っている時でも、余裕を持って譲歩できるジェントルマンでいたいと思う。ページ108
都内の地下鉄では「時間調整のため1分停車します」などという放送が入る。これはダンゴ運転が発生しそうになったときに、電車間の距離を確保するための典型的な処方箋だ。ページ179
例えば、伝染病の問題が挙げられる。…火を病原菌とみなせば、森林火災とほぼ同じアプローチで考えることができ、伝染病を食い止めるのは、病原菌に渋滞を起こせば良いことになる。感染者の分布密度がある一定値以上に上がらなければ病気が全体に広がることはない。この臨海密度を求める研究は、現在盛んに行われている。ページ190
フローマネーと渋滞について考えてみる。お金の流れが渋滞する事は、そこにお金が貯まると言うと考えることができる。自分のところで渋滞してくれれば、これもまた大変好ましい渋滞だ。…大変興味深い研究になると思われるが、わかっても誰もその結果を公表しないのではないかと思われる。ただ、1つだけここで言っておきたいことがある。それは、放っておくと富めるものはますます富み、そうでないものはますます貧しくなる、ということでお金は寂しがりやといわれるが、お金があるところにどんどん集まっていく。ページ190
以上、体内の状態を見てきたが、医学の分野に今後渋滞学が応用できる可能性は極めて大きい。はじめに述べたように、まず血液の渋滞に問題があり、血管内でどのような条件で渋滞が発生するかについて現在われわれは渋滞学的な立場から研究をすすめている。…実験が主であった医学の研究分野に、渋滞学と数学的手法がはいってゆくことで病気の治療の新しい可能性が開けることを願っている。ページ204
囚人のジレンマにおいて、両方とも自白してしまう結論のことを「ナッシュ均衡」という。一方、2人の主人にとって望ましい双方黙秘だが、これは「パレート最適」と言われている。このようにパレート最適ナッシュ均衡がずれる、と言うのがまさにこの囚人のジレンマの状況で。ゲーム理論の核心のひとつだ。ページ225
その後、微積分の登場で世界は根本から変化を遂げた。それは離散から連続への変化であり、微積分によって自然界のいろいろな対象を連続の世界で考える手法が確立した。…微積分は人類が得た道具の中で最も強力なものだと私は考えている。…今まで微積分を使って計算してきたものを今度はコンピューターを使って計算しようとすると、どうしても再び連続量を離散量に変換する必要がある。そこで、微積分が開発される以前の手法が再び注目され、近年ますます離散型の離散的アプローチが研究されてきている。ページ228