社会心理学講義

社会心理学講義」を読みました。元ライフネット生命の創業者、出口氏の推薦です。内容は難しいです。「虚構」に動かされる社会の実相を明らかにしています。「サピエンス全史」と同じ論です。「言ってはいけない」ことをあっさりと述べています。また、手を動かす前に意識が動くことを命令しているのではなく、動いてから意識が生まれるという実験結果を解説しています。これは、実に衝撃的な事実です。このメカニズムを機械に再現させないかぎり、鉄腕アトムのようなロボットは開発できません。「人間とは何か?」大阪大学の石黒先生のメインテーマそのものです。いずれにしても、真実を語ると身も蓋もないと思いました。備忘します。

社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)

社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)

  • 作者:小坂井 敏晶
  • 発売日: 2013/07/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

科学とは実証である前に、理論的考察です。物理学のような厳密な学問でもそうなのだが、心理学や社会学において、実証研究の結果だけで理論の成否を判断できるはずがない。科学が発展する上で実証以上に哲学的思索、そして自由な想像力が重要な役割を果たしていることを見落としてはなりません。ページ51
警察の厳しい尋問のもと、犯行動機が後から作られる。また服役生活において罪を日々反省する中で、犯罪時の記憶が1つの物語としてできあがる。この心理メカニズムは…スティンガーの認知理論の領域です。ページ75
手首を動かすと言う単純な行為だけが、このような転倒した順序で生じるのではない。意思は必ず無意識過程によって引き起こされるのであり、行為遂行の信号が意思に先行する構図は人間の行うすべての行為に共通します。ページ93
人間が自由だから、決定論に縛られないから責任が発生するのではない。人間は責任の必要があるから、その結果、自分の自由だと思い込むのだ。ページ126
自分が貧困なのは差別のせいでもなければ、社会制度に欠陥があるからでもない。正しく自分自身の資質や能力が他の人より劣るからに他なりません。序列の基準が正当ではないと信じるおかげで、我々は自らの劣等感を否認できる。しかし公正な社会では、この自己防衛が不可能です。下層に置かれるものに、もはや逃げ道は残されていない。ある日、正義を成就した国家からこんな通知が届きます。「欠陥者の皆様へ あなたの能力は他の人々に比べて劣ります。しかし、それはあなたの責任ではありません…」ページ216
少数派影響の特徴をさらに抽出します。多数派の影響は、すぐに現れるが、その場限りで消えやすい。対して少数派の場合はすぐには効果が現れないが、時間の経過とともに徐々に影響効果が浸透していく。これが多数派影響と少数派営業の第3の違いです。ページ257
もし同じ規範を全員が守るならば、社会は変化せず停滞する。いつまでも同じ価値観が続く、歴史のない社会です。犯罪のない社会は原理的にありえない。どんなに市民が努力しても、どのような政策や法律体系を採用しても、どれだけ警察力を強化しても犯罪はなくならない。悪の存在しない社会とは、すべての構成員が同じ価値観で染まって同じ行動をとる全体主義社会です。犯罪のない社会とは理想郷どころか、ジョージオーウェルの作品「1984年」に描かれるような、人間の精神が完全に抹殺される世界に他ならない。ページ270
社会がうまく機能しないから犯罪などの悪い出来事が起きるのではない。社会が正常に機能するから、必然的に問題が起きるのです。ページ271
弱者の解放を目指した少数派集団も、権力を握った途端に民衆を弾圧し始めるのは枚挙に暇がありません。ページ297
太古から続く伝統などと言うものは、大抵が後の時代になって着色された虚構です。実際に生じた変化、そして共存する多様性が忘却されるおかげで、民族同一性の連続が錯覚されるのです。ページ314
万物は流転する。集団を実体化するから、同一性の変化などと言う、表現自体が形容矛盾に陥ったような状況の前で右往左往するのです。発想を転換しましょう。世界は同一性や連続性によって支えられるのではない。反対に、断続的な現象群の絶え間ない生成、消滅が世界を満たしている。虚構の物語を無意識に作成し、断続的現象群を常に同一化する運動がなければ、連続性の様相は我々の前に現れません。集団の記憶や文化は常に変遷し、一瞬たりとも同一性を保っていない。したがって結局、集団同一性がどのように変化するかと悩むのは的外れです。視点を変え、虚構の物語として集団同一性が描く瞬間に構成、再構成されるプロセスを解明すれば良いのです。ページ324
時間が存在し、歴史が可能なのも、世界が閉じていないからです。心理、偶然、一回性、超越、意味、集団性、結局は同じことを指す。開かれた社会と言うパラダイムの射程が伝わったでしょうか。ページ383
やりたいからやる。親や周囲に反対されてもやる。ののしられても殴られても続ける。才能なんて関係ありません。やらずにはいられない。他にやることがない。だからやる。ただ、それだけのことです。研究者も同じではありませんか。死ぬ気で頑張れと言うのではありません。遊びで良い。人生なんて、どうせ暇つぶしです。理由はわからないがやりたいからやる。それが自分自身に対する誠実さでもあると思うのです。ページ394