日本人の勝算

「日本人の勝算」を読みました。韓国の急速な「最低賃金引き上げ」政策は、失業と中小企業加担の結果になったと言われています。本書では、「最低賃金の引き上げ」はやり方によって、日本の経済復活に良い影響を与えると述べています。日本の経済問題の本質は人口減だと言い切っています。経済論文を駆使して論を組み立てています。中小企業の経営をしてきた私には、賃上げの恐怖が心の底にあります。感情的には納得できないのですが、そうかもしれないと思いはじめています。「量的緩和で物価が上がると主張している人は、事業者が一定であると想定しているのです。…人口減少問題を抱えている国で…通貨の量を増やすだけでは、…2%インフレを実現する事は非現実的でしょう。」なるほど、なるほど。備忘します。

人口減少はそれだけで強烈なデフレ要因です。少子高齢化は人口減少によるデフレに拍車をかけ、さらにデフレを深刻化させます。そしてこれは雪だるま式に膨らんでいき、一旦この負のスパイラルが始まってしまうと、、そう簡単に止めることができなくなる。ページ25
日本では今後、最強のデフレ圧力となる人口減少に加え、様々なデフレ圧力の複合的に強まってきます。政策的な供給調整をしなければ、企業は市場原理に基づいた生き残り戦略をとるため、今まで以上にデフレ圧力が生じる事は避けられません。ページ39
量的緩和で物価が上がると主張している人は、事業者が一定であると想定しているのです。日銀の2%インフレ目標が実現されない最大の理由はここにあると思います。人口減少問題を抱えている国で供給調整を行わない場合、通貨の量を増やすだけでは、人口が引き続き増加している国々と同じ2%インフレを実現する事は非現実的でしょう。ページ44
この状況を生き延びるためには、賃上げをして生産性を高めることが不可欠です。しかも日本の生産性は、世界第28位と極めて低い順位に低迷しています。これは「伸びしろ」が大きいと言うことで、日本にとってもチャンスです。これさえ何とかできれば、日本の未来は明るいといえます。ページ55
…輸出をすることによって生産性が高まると言う仮説が否定されているのです。海外に輸出すること自体は、生産性の高さの重要な要因ではないのです。輸出をしたいと言う意思の方が重要で、それが生産性の高さの秘訣だそうです。ページ104
この論文ではどのような輸入が生産性向上につながるかを分析しています。これによると資本財や消費財の輸入が生産性の向上に大きく貢献し、原材料は貢献しないとされています。ページ109
企業の規模の大小による生産性の違いは、物的資本の違いが大きいという説明がされています。規模が大きくなればなるほど、設備投資をする余裕が生まれてくるので、社員一人ひとりに用意できる設備が充実します。ただ単に人が多い、少ないによって違いが生まれているのではなく、規模が大きくなると設備が充実することが、生産性の違いの原因なのです。ページ127
確かに、日本は特許の数はダントツで世界一ですが、生産性は世界第28位です。このことからも分かるように、いくら研究熱心であっても、開発した技術を広く普及させて生かさなければ、成果や実績にはつながりません。ページ141
現在、ヨーロッパを中心に、生産性を向上する経済政策は、継続的な最低賃金の引き上げです。最低賃金と生産性の間に、強い相関関係が認められるからです。ページ168
…韓国で悪影響が出たのは、引き上げ方に問題があったからです。韓国で一気に16%も引き上げるのは、さすがに極端すぎました。ページ188
新古典派の経済学が示唆する単純で非現実的な原理が否定された今、上手に最低賃金を引き上げる政策が、経済成長、女性活躍、格差の是正、福祉問題、財政問題など、あらゆる分野における問題の解決に大きく貢献するのではないかと期待されています。ページ207
最低賃金を上手に引き上げて、地方創生によってその経済を応援する政策パッケージが最も論理的です。よくよく考えると、経済力の弱い道府県ほど最低賃金を低く設定しておきながら、地方創生政策を掲げるのは、政策同士が矛盾してると言わざるを得ません。ページ233
新しい発想を持って、既存の経営資源を組み直したり、新しい企業体系を作ったり、技術と組織、その他の資源の新しい組み合わせを構築することが、生産性向上には1番効果的だと言うのが結論です。ページ272
最低賃金の引き上げを正当化するには、それに見合うだけの人材のスキルアップが必要です。その観点からも、人的資本形成のためのトレーニングが不可欠だと言う事は、感覚的にもご理解いただけるでしょう。ページ299