日本はなぜ貧しい人が多いのか

「日本はなぜ貧しい人が多いのか」(原田泰著 新潮選書)を読みました。面白い本でしたので、一部紹介します。「多くの人は思い込みに囚われている」との認識から、普通言われていることが正しいかどうか、豊富な資料から検証しています。私自身が、はじめて知ったことや、驚いたことを備忘します。

新潮選書 日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学

新潮選書 日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学


第1章 日本は大丈夫なのか

…日本は大丈夫と思われる事例も多い…ただし…教育をめぐる議論はめちゃくちゃで、学力格差を縮小しようというまともな議論もない。(p.16)

●日本は投資しすぎなのか

実質GDPも年平均成長率は…日本とイタリアは、労働投入の伸びの低さを資本の投入で補っている。…労働の寄与の低下が、日本を7カ国のなかで一番成長の低い国にした要因である。(p.30-)

●日本の労働生産性は低下したのか

日本経済は…1990年から世界金融危機が起きる前の2007年まで、日本の労働生産性の上昇率は、実はほとんど低下していなかった。(p.33)

●少年犯罪は増加しているのか

…おそらく、少年の殺人、放火、強姦は増えていない。少年強盗は多分増えているが(p.39)

給食費を払わないほど日本人のモラルは低下しているのか

個人に配る予算は意外に無駄が少ない…22億円という金額はモラルの低下がひどいということではなく、22億円しかモラルが低下していないことを示すのではないだろうか。(p.42-)

●学力格差をどう克服するか

…所得の低い地域で子どもの成績が低いことが報告されている。…子供の成績と組合の組織率に関係がないことは自然な結果に思える、(p.62)

第2章 格差問題の本質はなにか

格差を生み出す要因…について議論したのち、地域間格差の何が問題なのかを考え、その上で、格差を縮小するための若干の提案をしている。(p.68)

●格差問題の本質はなにか

…しかし多くの統計的な検証によると、それは高齢化に伴う減少で、高齢化の影響を調整してみると、格差はそれほど広がっていない。…不況が作り出す若者の不安定雇用こそ、克服すべき格差である。(p.72-)

●グローバリゼーションは格差をもたらすのか

…日本で格差の原因となっているのは、流通や外食や介護などの低賃金のサービス労働の拡大だと思われる。…しかし、これらの産業は海外とは競争していない。グローバリゼーションが格差の原因とするには、まだ検討の余地がある。(p.79)

●日本の生活保護制度はどこが変なのか

…日本の一人当たり公的扶助給付額は主要先進国の中で際立って高いが、公的扶助を実際に与えられている人は少ないということになる。これは極めて奇妙な制度である。…給付水準を引き下げて、生活保護を受ける人の比率を高くするべきだと思う。(p.96)

●日本はなぜ貧しい人が多いのか

…もっと気のきいた方法はある。それは最低限の所得保障を与えた上で、あるレベルに達するまで低い税率で課税することだ。これなら、働く意欲を阻害することは小さい。(p.102-)

第3章 人口減少は恐いのか

人口減少は恐くないが、高齢化は恐い。…高齢者優遇の制度を改めなければならない。

●低成長、人口減少時代の年金はどうあるべきか

年金支給額と支給年限を3割ずつカットすれば、年金支給額は…半分になる。年金保険料の引き下げは必要なくなるどころか、引き下げも可能になり、人口減少社会の最大の問題は解決する。そして、年金をカットした後でも、日本の年金は世界一のレベルにある。(p.137)

●高齢者はいつ豊かになったのか

多くの高齢者は、自分たちは自分の親の世代の面倒を見たのに、なぜ自分たちは見てもらえないのかと言うが、…本当に、現在の高い年金に見合うような仕送りをしたのだろうか。…高齢者の消費の増大は、年金が次第に拡充されていったことを反映しているだろう。(p.138)

●「高齢化で医療費増」は本当か

…人口構成の変化がもたらす医療費の変動のみの着目した場合、高齢化の影響は、実はマクロでみるとそれほど大きくはない。(p.140-)

第4章 世界に開かれることは厄介なのか

日本が世界経済の影響を受けることが多くなった。…しかし…日本こそ世界経済に大きな影響をもたらしている。(p.154)

●中国は脅威なのか、お得意様なのか

…中国は日本の競争相手ではない。…韓国やアメリカは日本の競争者だが、…中国は日本の良いお客である。…中国は日本の良い供給業者である。(p.164-)

●経常黒字をためこむことは必ず損なのか

…ドルはただの紙切れではなく、米国や世界中のものを買える価値のある紙切れである。その紙切れ建ての資産に投資することが、日本に投資することや金をもつことに比べて必ず損だという根拠はない。(p.175)

●「国際競争力」はどれだけ生活レベルを高めるのか

…日本や他の先進工業国では、「国際競争力が経済水準を向上させる」というような関係はないことがわかった。(p.188)

第5章 経済の現状をどう見ればよいのか

●「大停滞」の犯人は見つかったのか

…労働投入が減少したことが停滞の理由である。では、なぜ労働力投入が減少したのか。デフレで実質賃金が高止まってしまったことが…理由である。不況のなかでは実質賃金上昇は、ボディーブローのように効いてくる。(p.209)

●19世紀の世界経済はなぜデフレになったのか

19世紀のデフレーションは1873年に始まり1898年に終わったとされている…当時、世界主要国は金本位制を採用していた。…マネーの伸びを安定させておけば、デフレから脱却できる。(p.219-)

●昭和恐慌の教訓はなにか

…昭和恐慌の原因は、日本銀行が旧平価での金本位制に復帰するために、金融を引き締めたことにある。…この不況によって、民衆はエスタブリシュメントへの不信を抱くようになった。この機に乗じて影響力を増したのが軍部である。エリートの金融政策の失敗が、日本を軍国主義の跳梁を招くきっかけを作ったと言えるだろう。(p.228)

第6章 政府と日本銀行は何をしたら良いのか

…政府には私たちのお金を賢く使ってもらわなければならないし、中央銀行には、物価の安定を通じて、経済を安定させてもらわないといけない。(p.236)

日本銀行は何を目標としているのか

…日銀がゼロ%物価目標政策を採用しているのは明らかだ。…ゼロ%物価目標を続けている限り、日銀の目標とする金利の正常化も、政府の財政再建もできないということになる。(p.243)

●どの都知事が財政家だったか

…誰が財政家ということではなくて、どの知事も税収が増えれば使ってしまい、赤字が増えれば支出を絞るということだ。以上の事実は、東京都のみならず、国についても当てはまるだろう。増税して税収が増えれば使ってしまい、増税財政赤字を削減することはできないだろうということだ。(p.263)

●官民賃金格差は地域に何をもたらしたか

…公務員の賃金が地域の賃金水準よりも高ければ、有能な人材が公務員になり、ビジネスには集まらない。だから、地域の経済発展が遅れるのではないか。…かつて中国には科挙制度があり、それゆえ、有能な人間がこぞって役人になろうとした。中国では、商人になったり、技術者になったりすべき有能な人間が皆役人になったので、経済発展も技術進歩も遅れた。(p.274)