意識はいつ生まれるのか

「意識はいつ生まれるのか」を読みました。大阪大学の石黒先生は、ロボット研究は「人間とは何か」を知るための活動だと断言しています。人間とは「意識」であるとも言えます。この謎を脳生理学者がどのように考えているか、とても興味深く読みました。意識をもつ物体を作り出せれば、鉄腕アトムも可能だし、シンギュラリティも起きると思います。残念ながら、本書での結論は「よくわからない」です。「視床-皮膚系で他と区別する」「我々が知っていると思っている世界は、我々の得意な動画見をせてくれるものに過ぎないかもしれない」と。まるでマトリックスの世界です。備忘します。

脳の中にある、1000億のニューロンのそれぞれが、、どのように機能するかについて、正確な情報をすっかり集められたとする。だが、そうなったところで、脳がいかにして意識を持のかについては、科学的に有効な証明ができているとは限らない。生理学者を悩ます疑問は、この点にある。ページ53
矛盾と言うのは、小脳がニューロンの数で言えば最も大きな神経組織なのに、意識とはほとんど関係がないことだ。ページ95
だから、視床-皮膚系は意識を見出し、小脳は生み出さない、と言う認識を持つことが、非常に重要なものの見方を得たことを意味する。ページ98
情報理論の基本的な命題は、「ある身体システムは、情報を統合する能力があれば、意識がある。」と言うものだ。ページ111
脳が他の無数の選択肢を廃止、ある特定の状態を見分けるときに、全体として1つにまとまっている。したがって脳は、1度に1つの状態しか見分けることができない。このため、あらゆる意識経験は1つのものであって分けられない。…意識経験のどんな瞬間においても、顔や花瓶、青い壁、赤い壁、暗闇が見えるどの瞬間においても、われわれの脳は、何十億の何十億倍もの可能な選択肢から、1つを選んでいる。そしてその選択を、1つにまとまった単体として行う。ページ125
そろそろ第二の公理をまとめられそうだ。「意識の経験は、統合されたものである。意識のどの状態も、単一のものとして感じられる、ということだ。故に、意識の基盤も、統合された単一のものでなければならない。」「意識を生み出す基盤は、おびただしい数の異なる状態を区別できる。統合された存在である。つまり、ある身体システムが情報を統合できるなら、そのシステムには意識がある。」ページ126
情報理論に照らし合わせると、なぜ意識が発生するまでに時間がかかるのかを、比較的簡単に説明することができる。視床-皮膚系の内部で、情報が高いレベルで統合され得るためには時間がかかるのだ。最低でも、数百ミリ秒が必要だ。ページ172
脳が複雑性を獲得するまでには、何百万年にも及ぶ厳しい自然淘汰があり、9ヶ月の妊娠期間があり、なのにその複雑さを壊すと思ったらたいした力が入らない。イオンが意識にとって不都合な動き方をする。それだけであの複雑は崩れるのである。ページ203
様々な理由から、脳を毎晩襲う単純な波は、皮質回路を掃除し、覚醒時の活動で溜まった残滓を取り除いてくれる。ページ205
これまで、人間の脳に確かな複雑性の中核があるとき、意識があることを確認してきた。ページ228
…意識と無意識の間に境界があるとは考えにくい。例えば、進化の過程で意識が突然宿るようになったとは思い難いのだ。意識が言葉の発生と同時に無から出現したとは考えにくいし、子供が鏡の自分を認識できるようになったら突然意識が生まれるとも思えない。ページ257
おそらく、複雑性の獲得は、母親のお腹の中にいる時から始まる長いプロセスなのだろう。その背景には、初期段階の神経系が徐々に多様性を獲得していき、ニューロンが少しずつ選ばれ、つながっていくという過程があるのだろう。ページ257
脳は、周囲の環境から影響受けながら形成される。それならば、外界の1つにまとまった意味は、個々人の統合された視床-皮膚系においてのみ、存在するのだろうか。実際のところ、視床-皮膚系は、外界に存在する関係が、脳内で分かちがたい1つの関係に変わる、唯一の場である。結局のところ、我々が知っていると思っている世界は、我々の得意な動画見せてくれるものに過ぎない。ページ279