もしも1年後、この世にいないとしたら

「もしも1年後、この世にいないとしたら」を読みました。がん患者さん専門の精神科医の書いた本です。私の経験的、哲学的には決着のついている問題です。医療の現場で、普通の人がどのように乗り越えていくかの記録を興味深く拝読しました。自由に、思いのままに生きることが大事です。「死」を考えることが「生」を考えることだということを再認識しました。若い人が読めば、今日の生き方が変わると思います。備忘します。

もしも一年後、この世にいないとしたら。

もしも一年後、この世にいないとしたら。

  • 作者:清水研
  • 発売日: 2019/10/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

過去の研究では、がん告知後にうつ状態になられる方の割合は5人1人と言う報告がありますし、がん告知後1年以内の自殺率は、一般人口の24倍と言うデータもあります。ページ23
レジリエンス」はもともと物理学などの用語で、日本語に訳すと「可塑性」と言う意味になり、「元に戻る」ことを表しています。それが心理学の世界でも使われるようになり、柳のようなイメージの心の在り方を指すようになりました。ページ42
「岡田さんは将来のために今を生きていたんですね。別の言葉で言うと、将来のために今を犠牲にしていた。だから今の生き方がわからない」そう言うと岡田さんは「その通りだと思う。自分はどうしたら良いか、一緒に考えてほしい」とおっしゃいました。ページ59
心理学領域における心的外傷後成長に関する研究から、その人の考えには5つの変化が生じるうることが明らかになっています。それは次の5つです。①人生に対する感謝、②新たな視点(可能性)、③他者との関係の変化、④人間としての強さ、⑤精神的変容 ページ61
がんに対する恐れで頭がいっぱいになってしまっていても良くないですが、「健康はいつ失われるかわからないもの」であるし、「いつかは必ず失われるもの」と言う意識を心の片隅に持っていたいと私は思います。ページ64
ここまで伺って、「外科医でなければ自分は空っぽの存在」だとおっしゃったご本人の事情が理解できた気がして、「石原さんは立派な外科医にならないとお母さんに愛してもらえなかったんですね。それでずっと頑張ってこられたのですね」とお伝えしました。そうすると、気丈に振る舞っていた石原さんが初めて気持ちを抑えきれなくなり、涙を流されました。石原さんの気持ちが収まり、顔上げられたときに私はもう一言声をかけてみたくなり、「しかし優秀な外科医でなければ本当に石原さんには価値がないのでしょうか」と問いかけました。その言葉に対して石原さんは、「さあ、どうなんでしょうか」と答えました。ページ103
そして、強い「must」の自分がいる人たちは、「must」の声に従って頑張ることができなくなる中年期などに、危機を迎えることもあります。あるいは、がんになるなどの大きな障壁に期せずしてぶつかると、行き詰まってしまうことがあります。…「must」の自分は心のままに悲しみ、落ち込むことを許してくれないからです。ページ121
今は健康だけど、その状況はいつか様変わりしてしまうだろう。少なくとも「今与えられている健康は永遠に続くものではない」と思うと、それまでの前提であった「明日も明後日も来月も1年後も当たり前のように人生は続く」と言う考えは崩れ、今日1日を過ごせることがありがたいことに思えてきたわけです。ページ145
…例えば最近は人生100年時代と言われます。そうすると高齢者の入り口と定義されている65歳もまだまだ通過地点であり、「どうやって長い老年期を生きようか」ということをまず考える方も多いでしょう。このこと自体はとても良いことだと思いますが、その一方で、人生100年時代という言葉には、「死」について考える事は後回しにしようという思惑が透けて見えます。また、アンチエイジン(不老)という考え方があります。元気で若々しく生きようと言う事は結構ですが、この中には非現実的な不老不死を求める人間の志向性が如実に表れています。ページ164
なぜなら人間には限界があり、いずれ私を迎えると知っていることが、非常に重要な意味を持つからです。死を意識しない世界はどこかで破綻してしまいます。その人が若々しく生き続け、突然ぽっくり死ぬことができれば、老いに関する問題を意識せずに済むかもしれませんが、ほとんどの人がどこかの時点で問題に直面します。ページ166
がんで亡くなられた宗教学者の岸本英夫さんは、死を「大切な人たちとの大きな別れ」と捉え、良い別れをするために相応の準備をすることで、心が穏やかになると言っています。ページ186
私は学生時代に自動車の運転で、一歩間違えれば死んでしまっていたようなことが実際にありました。思い出すだけでも身の毛が立つような記憶なのですが、でもその時のことが頭に浮かんだときは、しばしその記憶と向き合い、私もあそこで死んでいたのかもしれないな、などと考えるようにしています。そうすると、心が凍りついてしまう記憶が去っていった後に、今生きていること、時間が与えられていることをしみじみと感じ、あたたかい感覚に包まれます。皆さんの体験の中でも、もしあの時こうなったら命にかかっわったかもしれないと言うものがあれば、その記憶を大切にしてください。最初は辛いかもしれませんが、私のように味わってみるのも1つの方法でしょう。ページ192
「今日一日をこのように過ごせる事は当たり前ではない」ということを意識することは、「今、ここにある自分」を大切に生きることにつながるでしょう。ページ194