迷惑な進化

「迷惑な進化」を読みました。ユーモア溢れる本です。病気の遺伝子を語りながら最新のゲノム解析の研究結果も織り交ぜて解説しています。ペストが大流行しなくなった理由は、鉄の少ない遺伝子「ヘモクロマトーシス」を持っている子孫が増えたからだそうです。トキソプラズマに冒された女性は淫乱になるとか… 圧巻は、ミトコンドリアをはじめ、人間のDNAのおよそ3分の1は、もともとウィルス由来で、人間は、ウィルスや細菌を組み込むようにして作られているとのこと。驚きました。人類の体に毛がないのは、水生生活またはそれに近い過去があるからだ。これもまた驚きました。初めて読む知見です。本当かどうかは解りませんが楽しく読めました。備忘します。

この世界のあらゆるものがあらゆるものの進化に影響及ぼしているということだ。人間は細菌、ウィルスや寄生虫のせいで病気になる。だが細菌やウィルスや寄生虫は人間を、それらと共生しているいけるように進化させてきた。一方で、最近はウィルスや寄生虫も進化してきたし、現に今も進化し続けている。環境要因も人間を進化させてきた。ページ17
人間と鉄との関係は、どうやらこれまで…人間にとって不可欠な物質であることは間違いない。しかし同時に、人の命を脅かす生き物たちにとっても不可欠な物質である。ページ26
最近の研究によると、体内の鉄分に富む人口集団ほどベストの害を受けていることがわかってきた。同じ集団内では、健康な成人男性が最も感染しやすかった。子供や老人は栄養不足で体内の鉄が不十分だったし、成人女性は月経や妊娠、母乳育児で常に体内の鉄を生まれていたからだ。ページ32
黒死病とも呼ばれた14世紀の腺ペストは史上最悪のパンデミックを引き起こしたが、その後、ヨーロッパでは18世紀から19世紀まで数十年を期にペストの流行が繰り返された。最初の大流行を生き延びたヘモクロマトーシスの子孫は、その後に流行したベストもくぐり抜け、ヨーロッパの人口全体に占める割合を300年かけて増やしていった。14世紀のパンデミック以降、ベストが流行するたびに被害の規模が縮小していったのは、ヘモクロマトーシスの変異遺伝子を持つ人口の割合が増えていたからだとも考えられる。ページ36
調査の結果わかったのは、最後の生氷河期ヤンガー・ドリアスはたった3年で終わっていたということだった。氷河期から非氷河期までは、3000年でも300年でもなく、たった3年だったのだ。ページ55
新しい病気や新しい捕食者、新しい氷河期などが現れて、個体集団を全滅させるほどの突然の環境変化が起きたとき、自然淘汰は生き延びるチャンスを高めてくれる形質は1も2もなく飛びつく。ページ71
ともかくはっきりしているのは、あなたの健康は祖先がどこでどんな問題に適応してきたのかということと、あなたが現在どこで、どんな暮らしをしているかでかなりのことが決まるということだ。ページ95
殺虫剤の毒を減らそうとあらゆる努力をしている有機農家は、結果的に植物の天然の毒を増やしているというわけだ。いやはや、生き物の世界は複雑だ。ページ115
感覚器官も姿形も血液の成分も、あらゆるものは病気に合わせて進化してきた。恋に落ちるという「反応」も、病気への対抗策の1つかもしれない。ある異性に強く惹かれるという時、あなたはその異性の匂いに惹かれているのに気づいたことがあるだろうか? これは、あなたが自分とは異なる免疫系を持つ相手を嗅ぎ分けている印だ。異なる免疫を持つ2人が恋をすれば、より広範な病気に抵抗できる子孫を残せる可能性が高い。ページ126
トキソプラズマに)感染した女性はそうでない女性より、おおらかに振る舞い、情が厚く、友人が多く、見た目を気にする。しかし、信用できないところがあり、また男性との関係を多く持つ傾向が認められた。ページ138
くしゃみは確かに症状だが、風邪をひいたときに出るくしゃみはあなたを守るためではなく、ウィルスの利益のための反応だ。僕たちは感染症にかかった時に出る様々な反応症状だと思っているが、それは人間に取り付いた細菌、ウィルスが、次の宿主に乗り移るための手助けをするよう宿主操作をした結果なのかもしれない。ページ139
僕たち人間が最近の進化に影響与えてきたことがよくわかった。抗生物質が効かない耐性菌の出現が怖いのは、人間よりも最近の方が進化速度がずいぶん、細菌にとって有利だということだ。ページ152
人間が共に暮らすことにした有機体は、(ミトコンドリア)だけではない人間のDNAのおよそ3分の1はウィルスだと科学者たちは信じている。つまり、人間の進化はウィルスや細菌に適応するよう形作られたいうよりも、ウィルスや細菌を組み込むようにして形作られたと言うのだ。ページ160
ウィルスは遺伝子情報の切れ端で、自分だけでは動くことも増殖することもできない。宿主に感染して宿主の細胞の増殖機構を乗っ取って、初めて増殖できる。ウィルスは細胞内で自分自身を何千回も複製し、やがて細胞を破裂させて外に飛び出し、新しい細胞に移動する。科学者の大半は「ウィルスを生きている」とは考えていない。自分だけでは増殖も代謝もできないからだ。ページ181
レオナルド・へイフリックは現代の老化研究の基礎を築いた人物の1人だ。1960年代に、細胞は決まった回数だけ分裂すると寿命が尽きてしまうことを発見した。この、細胞分裂の回数制限はへイフリック限界と呼ばれていて、人間の場合は52回から60回ほどだ。ページ222
陸生の大型哺乳類の中で皮膚の下に脂肪を蓄えているのは人類だけだと言う記述に、生物学者のハーディーはぴんときた。人類と水生ほ乳動物との共通点。カバもアシカも鯨も人間も、みんな皮膚の下に脂肪がある。水生ほ乳動物に特徴的な特性を人類が共有している理由はただ1つ。人類には水生生活またはそれに近い過去があるからだ。水生類人猿説(アクア設)の誕生だ。ページ237
命とは、なんと繊細で複雑な贈り物なのだろう。生物学と科学、電磁気学、工学の粋を集めてパーツを組み立て、しかもその全体にパーツの集合体以上の意味を与えて出来上がった奇跡的な産物。だが万物は崩壊へと向かう。形あるものは必ず壊れる。そうした仕組みの中で、僕たちが今生きているのはそれ自体、驚くべきことだ。それほど大きな故障もなく生きているのなら、なお素晴らしい。健康である事は当たり前のことなのではなく、極めて運がいいことなのだと思える。ページ246